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後ろの声

私が実際に体験した話。
高校の頃、私はSkypeにはまっていて、毎日いろんな地方の人達と話をするのが日課だった。
今日あった楽しかったこと、愚痴、他愛もない話。
寝る前に必ずと言っていいほど誰かと話してから寝ていた。

そんなある日、気分転換に模様替えをしようと、朝から一日がかりで部屋をひっくり返して大掃除をした。
必要ないけど捨てられないものをまとめてクローゼットにしまい込み、元々クローゼットが怖かったので、閉め切ってその前をベッドを置いて塞いで寝ることにした。

頭元は壁、右には閉め切ったクローゼット、左には勉強机といった感じの配置で、その日も寝る前に電気を消してベッドでゴロゴロしながら通話をしていた。
その日はよく通話する仲のいい人と話をしていたのだが、突然
「あれ?今一人じゃないの?」
と聞かれた。
「え、一人だけど…」
「うそ、友達来てるならまた今度暇な時でいいよ?」
「だれもいないって。」
「いや近くで女の子の声するけど」
と笑いながら言われてしまった。
「怖いこと言わないでよ、本当に一人だって。」と言ってその日は怖い気持ちのまま通話を切り、なかなか寝付けないまま朝を迎えた。

寝不足でぼんやりと一日を過ごして、また夜。
ベッドに入り、今度は別の人と通話を始めた。
すると通話を初めてすぐに
「あれ?今一人?お母さんもう寝たって言ってなかった?」
と言われた。
「寝てるし一人だけど…」
「え、女の人の声後ろから聞こえてるけど…」
「やめてよ…そっちの家で聞こえてるんじゃないん…うちちゃうよ怖いわ…」
と言うと、「いや気のせい!たぶん気のせいだわ!」と言ってくれたが、昨日のこともあり、怖くて眠くなるぎりぎりまで通話をつなげてもらって、その日は寝た。

数日間いろんな人と通話したのだが、こんなことが毎日続き、「お母さんいるの?」「友達来てるの?」「後ろから女の声がする」「女の子の声がする」「声がする。」
私からは何の話もしていないのにみんなが口をそろえて、「女の声がする」と言うようになった。
連日の寝不足のせいで日中体はずっとどんより重く、頭はぼーっとする。
ミスは増えるし、集中できないせいでケガも徐々に増えていった。
何をやってもうまくいかなかった。

通話しなければいいものを、一人で寝るのも怖くてたまらなかった私はそれでも毎日通話をした。
けれどそろそろ限界が近づき、模様替えをして一週間ほど経った日、まだ声が聞こえるというので、その声が一体何を言っているのか聞いてみた。
「何を言ってるかわかんない。なんかずっとぼそぼそ言ってて…あ…友達じゃないか、ずっと一方的に柏井になんか喋りかけてるもんね。」
と。

次の日、また模様替えをして、家具を全部元にあったところに戻した。
その夜からぱったり、声の話はされなくなり、聞こえたと言っていた人と通話した時に、恐る恐る
「声聞こえる…?」
と聞いても、
「聞こえないよ!」
と言われ心底安心したのを覚えている。
その日からよく眠れるようになり、私は以前にも増してクローゼットに近寄らなくなった。


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