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DXの前提となるケイパビリティ

デジタル化の波は多くの伝統的な企業を破滅に追い込み、その波は自社のビジネスにも影響を及ぼすため*1、新たなビジネスの開拓やビジネスモデルの抜本的な変革が必要だと感じている。*2
そして変革を推進するエンジンが、デジタル・トランスフォーメーション(DX)だと言われているので、その効果に対して大いに期待している。
*1 総務省『情報通信白書』2021年 p82 図表1-2-2-4 デジタル化による影響
*2 同 p84 図表1-2-2-6 デジタル化の進展を踏まえたビジネスの方向性

このあたりの段階で悩まれている皆さんへ、闇雲にDXへ飛びつく前に、DXの前提となる企業のケイパビリティについて考えてみませんか?

業績に影響を及ぼすのはイノベーション活動

中小企業庁からイノベーションと利益の相関に関する調査結果が公開されています。その調査では、プロダクトイノベーションとプロセスイノベーションの双方において、達成あり、活動のみ、活動なし、の3パターンに分類し、それぞれに対して利益がどうなったのかを対比させています。

この図から、以下のような興味深い結果が読み取れます。
 ① イノベーションを達成したからと言って、減収する場合もある
 ② 達成せずとも活動することで、達成と同様の効果があらわれている
 ③ 当然イノベーション活動がなければ、増収傾向の割合が減少する

図1

特筆すべきは、②のイノベーションの達成と活動のみがほぼ同様の割合となっていることです。これはプロダクト及びプロセス双方におけるイノベーション活動、つまり様々なアイデアを改善活動や事業化につなげる取組みが、おそらく他の業務分野にも良い波及効果を及ぼし、全体的な業績を押し上げる結果となっていると言えそうです。

イノベーションの源泉は画期的なアイデア

これに関連して、アイデアの創出に関する面白いデータを紹介します。
これは、2004年のハーバードビジネスレビュー誌で紹介された、アイデアの価値と組織における多様性の関係を参考に作成した図です。

図1

この図からも、いくつかの興味深い結果が見て取れます。
 ① アイデアの数は組織の多様性に比例する
 ② 多様性が高いとアイデアのばらつきも増す
 ② アイデアの数が増えると価値の平均値は低下する

アイデアとイノベーションの間には、以下の関係が成り立ちます。

アイデア ➔ イノベーション 

これに上図の調査結果を加味すると、このような関係に変化します。

多様性 ➔ アイデア増加 ➔ 取捨選択 ➔ イノベーション ➔ 増収 

イノベーションの達成にもかかわらず収益が低下した企業は、くだらないアイデアを選択してイノベーションにつなげたことが容易に想像できます。
創出されたアイデアを取捨選択する眼力が、業績を大きく左右するとも言えるでしょう。

日本型『両利きの経営』とは

『両利きの経営』とは一つの会社において、現在のコアビジネスと革新的なビジネスを同時に実行することを意味し、著者の一人であるチャールズ・オライリー氏は、知の探査の先にある革新的なビジネス創出のためには専任部隊を組織化し権限移譲することが重要だと指摘されています。

しかしながら日本企業においては、アイデア創出の役割を高い現場力に求め、彼らが得意とするQC活動やチームワークを活かす方法がマッチしているのではないでしょうか。

事実、富士フイルム社の多岐にわたる事業展開は古森社長から社員に向けた3つの質問に対する回答の成果ですし、小林製薬社の年間5万件にものぼるアイデアは、市場の「あったらいいな!」を常に考える現場の社員から上がってきたものです。

図1

もちろん現場がアイデア創出に目を向けるためには、トップの想いが現場に共有される(最近の言葉で言えばセンスメイキングの醸成、腹落ち)が重要であることは間違いありません。

そしてビジネス推進部隊の役割は、アイデアの目利き、市場のライフサイクルにおけるポジション判断、赤波青波の見極め、最適事業化のためのエコシステム検討、黒字化の時期予測など、インキュベーションの専門家としてデジタルの要素を含めてプロフェッショナル部隊になるべきだと考えます。

現場:アイデア創出 ➔ ビジネス推進部隊:目利きと事業化

このように現場力と推進部隊のフォーメーションによる『両利きの経営』の推進が、日本企業にフィットした体制になるはずです。

取組むべきことは個人の創造性向上

アイデアの創出を現場に委ねる場合、一番の阻害要因となるのが多様性の乏しさでしょう。日本企業においては、経路依存性と呼ばれる、過去の経緯やすでに出来上がった仕組みに縛られ、過去の意思決定に制約を受ける現象が多様性の推進を阻みます。

なかなか進まないダイバーシティや数合わせの女性活躍、新卒一括採用による同質性の高い社員構成、均一な勤務体系や評価制度、終身雇用に認められない兼業副業など、日本企業には多様性を阻害する要因が満載です。

前述のとおりアイデアの創出は多様性に比例するので、このままでは川上から水が流れてこないという状況を打破できません。しかし、組織構造の変革や組織文化を変えることは容易ではなく、早急に着手する必要があるものの、効果があらわれるのにはかなりの時間を要します。

したがって今すぐに検討すべきことは、社員個人個人の創造性を高める取組みを行ない、アイデア創出のための現場力向上に向かうことなのです(個人の創造性を高める方法に関しては次のITACHIBA会議にて説明します)。

イノベーションサイクルをまわせ!

個人の創造性を高めつつ、外部要因からの圧力や刺激に合わせて、柔軟かつ継続的に変態するためには、組織と役割をフローで捉える必要があります。

この図はイノベーションサイクルを概念的に表現したものです。

図1

現場からあがってくるアイデアは構想力で形になり、推進部隊が取捨選択して事業化に向かいます。他方、改善アイデアは現状通りPDCAの流れに任せます。

変革アイデアは事業化として企画され、事業の連続性により破壊的、持続的な事業として仕分けされリソース配分が検討されます。加えて事業に応じて採用・評価・働き方などが変わり新たな企業文化を醸成します。そして新たな企業文化は多様性を育み、創造性の向上を後押しします。

デジタル化の第一の役割は、このサイクルを正確・高速・柔軟に運転することにあるのです。加えてデジタル化された業務はデータとして蓄積・可視化され、業務改善へと向かいます。さらにデジタル化のメリットを享受した現場は、想像力にデジタルの効果が加わることになります。これがデジタルビジネスの種へとつながります。この一連の流れがデジタイゼーションによる効果になるでしょう。

デジタルビジネスの種は推進部隊への引き継がれ、デジタライゼーション(デジタルビジネストランスフォーメーション)へと発展します。同様に変革とデジタルの重なりがデジタルトランスフォーメーションとなるのです。

最後に、このサイクルを推進するエンジンとなるのは、自社のDXを定義し、その想いを全社員が共有することにあります。

DXに上手く取り組んでおられ企業は、総じてDXの目的、範囲、役割、体制、権限、などを盛り込んだ自社なりのDXを最初に定義されています。
また、可能であれば最近流行りのパーパス(企業の存在意義)を含めたメッセージであればより浸透度が高まるでしょう。

以上簡単ですが、10月13日にITACHIBA会議二水会にて話した内容の抜粋としてメモを残しておきます。

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