ケン・ソゴルと和子
透明な手紙の香り。
開けていいよ、と声をかける
すると空間に突然画面が現れた
ホログラフィーだ
文字が浮き上がった
もちろん手紙の差出人はすでにわかっている
差出人ごとに香りが違うからだ
ねえねえ、知ってる?
その昔、電子メールというものが手紙として使われていた時代があったんだって
当時は、ディスプレイという文字や画像を表示する機械があって、その画面にメールのなかみが表示されたんだって
手紙を書くのにキーボードとか、マウスっていう道具を使っていたんだって
でも、それよりもさらに昔には手書きで書いた手紙を届けてくれる係りの人がいた時代もあったんだよ
へええ!
そこまでしてくれるの?
いいなあ
わくわくするなあ
筆跡に人柄が現れる
紙やペンの手触り感もある
ほのかな香りもあった
手紙が届けるものは、文字と情報だけではない
おそらくは、その人らしさが一緒に届けられる
書かれている内容もさることながら、その人らしさが伝わるとき、手紙を受け取ったことを喜ぶ気持ちでいっぱいになる
だから、ホログラフィの時代になったいまも、その点を考慮したサービスが提供されている
着信時には、大気中の不純物を電離して香りを人工的に作り出す
その成分の組み合わせは手紙の差出人ごとに決まっており、重複はない
開封することも、返信することも、操作はすべて音声だ
このラベンダーの香り
あっ タイムトラベラーだ!
(568字)
今回は、シロクマ文芸部の企画に初参加させて頂きました。今回のお題は「透明な手紙の香り」でした。どうぞよろしくお願いいたします。
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