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雷神

初夏を聴く
耳を澄ますとゴロゴロゴロという音が聞こえる

今から10万年か100万年ほど前だろうか
東アジアの太平洋岸に近いところに島国があった
雷が鳴ると梅雨が明けるという言い伝えがあった
太平洋高気圧が発達すると、梅雨前線を北方に押し上げ、やがて本格的な夏になる
その際、雷雲が発生しやすくなる

雷はかつて自然現象と考えられていた
上空の帯電した雲と地面との間での絶縁破壊によって起きる大規模放電だ
メカニズムがわかってしまえば、人工的に発生させ制御することもできる
今日、管理者たちは雷神と呼ばれている

初夏が訪れるころ、雷神は仕事を始める
季節の変化を穏やかに知らせる
ゴロゴロゴロ

それだけではない
不埒者には稲妻によって警告を発する
時に激しい落雷によって容赦なく処罰する

平安時代の清涼殿落雷では、政治権力中枢の死者が出たことは有名だ

だが、文明が進歩すれば、そんなことはもはやないと高をくくっている者が
いる
エアコンの効いた明るい照明の部屋でコンピュータのディスプレイにむかって、なにやら不遜で横着な動画を作ったり、記事を書いている者がいる

雷神は時々ホログラフィーで姿を現わす

その時、屋外ではぴかっと稲妻が走り、すぐ大きな雷鳴が轟いた

その町は真っ暗になった
コンピュータは故障し、そこにあったすべてのデジタル資産は消失した

初夏といえば、そんな事件が起きる季節だ
ゴロゴロゴロ

今日も雷神が現れたようだ
あっ
(587字)

シロクマ文芸部の企画に参加させて頂きました。今回のお題は「初夏を聴く」でした。どうぞよろしくお願いいたします。

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