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臨終

布団から出たくないよ、と願ったことも以前にはあった
心地よい暖かさと安心感に満ちていたから

やがて、出ようと願ったとして出られないことを知った

出ようとすると、体が重くなりまったく動けなくなる
それどころか、口もきけない
顔の表情さえ、変えることができない
動かせるのは、せいぜい目だけだ

ブラックホールは巨大な質量によって生まれる
長い時間をかけて星の残骸を次々となかにとりこんで巨大化する
あまりにも大きな重力場のため、光さえも外には脱出できない

まるでブラックホールみたいだ…と思った
すると、時間が非常にゆっくりというか、ほとんど止まったも同然になるのか

布団から出たいよ、と願ったことも以前にはあった
外の世界は、明るくて自由で楽しそうで、わくわくするから

やがて、そんなのは、ただの刹那だと悟った

布団のなかは、心地よい暖かさと安心感に満ちている
しかも永遠の時間がある

動かない顔の表情がゆるんだ
にっこりと、静かに笑った
(400字)

2023年4月下旬頃からシロクマ文芸部の企画に毎週参加させて頂いています。2024年4月まで1年ぴったりの継続のつもりです。金曜午前(早朝)に投稿します。今回のお題は「布団から」が書き出しでした。どうぞよろしくお願いいたします。



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