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白は静かな死の色

雪化粧なんていう穏やかなものではなかった

激しい吹雪と雪崩のため、集落はほぼ壊滅だ
生き残った者たちは厳寒のなか孤立した
電力もなければ燃料も食糧もない
死ぬのは時間の問題だろう

北極周辺に極渦がある
強い風が渦巻く低気圧だ
この渦が壊れた時、きわめて冷たい風が一気に外に噴き出す
気候変動の影響で、夏季の北極海の氷が融け、海水面が露出している面積が大幅に拡大した
それが冬の大寒波を生み出しやすくしているようだ

こんな吹雪では誰も助けに来るなんてことはできない
救助隊にできることは、遺体の発見・確認と輸送だ

どうせならば、と外に出た

足が重い
感覚がマヒしてきたようで、もはや寒さも痛みもない
だんだんと前に進めなくなった
寒いのに暖かくて気持ちがいい

荒れ狂う吹雪のなかにかすかに人のような姿かたちが見える
そのうち気が遠くなってきた
風の音も何も聞こえない

静かだ…と思った

薄れてゆく意識のなかで、白装束の女の姿が浮かびあがった
雪女の姿を見たら、助からないという言い伝えを聞いたことがある
これで終わりだと悟った

女の白い顔を見た
有無を言わさず、ただ、死の道に向かわせる白さだった
(472字)

2023年4月下旬頃からシロクマ文芸部の企画に毎週参加させて頂いています。2024年4月まで1年ぴったりの継続のつもりです。金曜午前(早朝)に投稿します。今回のお題は「雪化粧」が書き出しでした。どうぞよろしくお願いいたします。

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