死刑廃止
誕生日の刑に処す
裁判官の声が凛と響いた
その昔、重罪と言えば、死刑と決まっていた時代があった
絞首、斬首、鋸挽き、電気椅子、致死薬注射、致死ガス、銃殺、八つ裂き、猛獣刑、石打ち、磔刑、火あぶり、釜茹でなど、方法はさまざまだ
死をもって罪を償なわせるという思想とコンセンサスがあった
それに対し、死刑に反対する運動もあった
殺人の罪を犯した者を死刑にすれば、それも罪ではないか
いかなる極悪人であっても、他者が命を奪うという構造そのものに違和感が残るということだった
だが、死刑を廃止し、終身刑にすれば、その建前に反し、いつか監獄を出て、普通に社会に戻ってくることがあるという懸念や批判もあった
一方、これまでも宗教者が死刑確定囚を訪ね、命の尊さ、生きている時間の重さを説法によって伝えることはよくあった
その成果を評価し、そこから死刑制度の改革を望む意見もあった
その反対に、そこに偽装を疑う意見もあった
人類の叡知は、ついにその究極の解決方法を生み出した
誕生日の刑が発明され、死刑と終身刑が同時に廃止されたのである
囚人は誕生日を迎えると、その日を自ら祝うことが許され、特別な場所にヘリコプターで連れてゆかれる
絶海の孤島にそびえたつ尖塔のてっぺんに設けられたオープンフロアだ
Happy Birthday! 君の幸運を祈る!
囚人をその場に残し、刑務官は帰っていた
テーブルがあり、誕生日のケーキがある
問題は、そのケーキが1つや2つではなく、年齢の数あることだ
日が暮れれば、この場所の気温では、生きて翌日を迎えることは無理だ
ぼやぼやしないで食べ始めよう
残さず全部食べ終われば、迎えのヘリコプターが来ることになっている
来年、また来るとき、ケーキの数は1つ増えている
40,50でも相当だが、まず60は無理だろう
重罪を犯した者がのうのうと長生きできるわけではないことは誰にでもわかる
死刑と終身刑が廃止されても、十分に罰せられている
残虐な刑罰によって、社会に負の連鎖を生み出すこともない
生と死のテーマ、1年の時間の重さのテーマは、宗教者に教わるまでもなく、まして偽装するまでもなく、身体の感覚によって理解するだろう
誕生日を祝うことは、誰にとっても、社会にとってもとてもよいことだ
Happy Birthday!
(936字)
2023年4月下旬頃からシロクマ文芸部の企画に毎週参加させて頂いています。2024年4月まで1年ぴったりの継続のつもりです。金曜午前(早朝)に投稿します。今回のお題は「誕生日」が書き出しでした。どうぞよろしくお願いいたします。
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