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秘密指令

月の耳アクセサリがジジッと震えた
透子は耳に手をやった
新しいミッションのようだ

背を伸ばして前をまっすぐに見ろ
そのまま歩き続けるんだ

王宮の城壁が見えてきたら走れ
止まらずに全速力だ

透子は走り始めた
城壁にぶつかったかと思ったら消えた
驚くことはない
4次元化されているのだから当たり前だろう

王妃の病室にたどり着いた
医師団は心臓や肺の重い病気で手の施しようがないと考えているようだ
せめて、おなかのなかの王子だけでも救えないか
だが、切開に耐えきれるだろうか

そこに姿を現した透子はベッドの上の王妃に手を伸ばした
他の臓器に触れないように注意しながら、すっと赤ん坊をとりだした
赤ん坊が元気に泣き始めた 
一同は仰天したが、すぐに看護師たちがてきぱきと処置を始めた

医師たちは直ちに王妃の心臓の治療に専念することを決めた

透子は大臣の部屋にむかっている
クーデーター計画の黒幕だ
王妃に万一のことがあったら、葬儀の日が決行日のつもりのようだ

大臣は立ち上がって、窓から夜空を眺めていた
透子は後ろから近づき、手を伸ばした
ぐいと内臓脂肪の塊を抜き取った
大臣は声も出すこともなく気を失った

翌朝、大臣は反逆の容疑で逮捕された
貫禄がいいと言われていたのに、貧相でいかにも罪人風だったので、人々が驚いた

透子は町を歩いている
耳に手をやって、終わったわ、と言った

月の者たちに休みはなく、今日も働いている
耳のあたりがジジッと震えた
(587字)

シロクマ文芸部の企画に参加させて頂きました。今回のお題は「月の耳」でした。どうぞよろしくお願いいたします。


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