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後知恵バイアス
Hindsight bias(日本語では「後知恵バイアス」)とは、物事が実際に起きてしまった後になってから、それは事前に予測可能だったと発言したり、考えたりする、あるいはそのように考えたくなる心理の傾向のことです。知識や情報を獲得した結果、それ以前の段階で、自分が実際に認識、推論、判断できただろうと考えられる能力を上方修正してしまう、時には記憶を作り替えてしまうことです。日常生活でも結構よくあるのではないでしょうか。例えば、火山や地震の大災害、医療上の診断や手術などの処置などです。ほかにも、いくらでもあるでしょう。
https://www.youtube.com/watch?v=csqOL_KT4Go
Hindsight bias(日本語では「後知恵バイアス」)という用語さえもなかった時代でさえ、コロンブスと卵のエピソードはよく知られています。
科学の研究で得られる知識には、ほぼなんでも、こうしたことがあてはまるように思います。最初は誰も知らないことを、ある研究者が発見したり、解明したりします。そのようにして新たな知識を獲得したら、それは新しい常識となり、共有されます。それはもはや新しくなく、いまでは苦労せずに利用することはできるでしょうが、だからと言って、発見者がなんの苦労もなく軽々と、その知識に到達したわけではありません。あとから何とでも言うのは簡単ですが、その当時は誰にも信用されなかったり、自分でもなかなか確信できなかったり、苦労したわけです。Hindsight bias(日本語では「後知恵バイアス」)は、こういったことへの想像力や、先駆者への尊敬の念を奪います。
後知恵がもっともやっかいなのは、歴史の解釈ではないでしょうか。そのことで、ぜひ note に書いておきたいと思ったことがあります。
2020年、Yuval Noah Harari先生の "Sapiens: A Brief History of Humankind" (日本語訳は「サピエンス全史」)について、そこでふれられている重要な論点をとりあげて、10回ほどに分けて記事を書きました。一部は動画やポッドキャストになっています。ところが、一部、そこに入れ忘れた章があり、気になっていました。第13章 The Secrets of Success (日本語翻訳版では「歴史の必然と謎めいた選択」)です。これは短い章なのですが、後知恵に触れ、興味深いことが述べられていますので、ちょっと見てみましょう。
例えば、「ローマ帝国がキリスト教を国教としたのは必然か」といったことです。コンスタンティヌス1世は、キリスト教を選びました。
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当時のキリスト教は、いまとは違い、圧倒的な少数派であり、ほかにもいくつもの有力な宗教はありました。キリスト教がローマの国教になるとは、その時代の人たちにとっては、全くあり得なさそうにみえたことでした。それでも、実際には起きてしまったわけです。その理由を歴史家はいろいろと推測することはできますが、確定的なことは結局はわかりません。
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Yuval Noah Harari先生は、歴史は、決定論では説明できないのだと説明なさっています。歴史的必然という言葉は、もう少し違った立場で語られるべきものです。歴史は、というよりも、社会は複雑系です。原文では second-order chaotic system (2次のカオス系)と言っています。用語の妥当性は措くとして、わずかな初期条件の違いがまるで異なる結果につながる数学モデルとの類似性を指摘されたいのでしょう。社会にはいろいろなプレーヤーがいます。思惑をもって動く国家や政治家や軍や投資家がおり、その動きが全体的な予測にも影響を与えるため、結局、予測の精度を上げられば上げるほど、予測通りにはならず、むしろ大外れを引き起こすことにもなります。歴史は、そのような社会現象を後から解釈しているということを理解する必要があります。
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