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マヒマヒの夜空

咳をしても金魚。
ゴホン、ゴホン、金色というより朱色、光沢のある橙色じゃないの
綺麗で華奢で可愛いから、別にいいけど

水槽に入れた時、鮮やかな朱色のほうが断然映えるからなんだろうね
本物の金色の魚がご所望かな?

えっ あるの? 見たい、見たい

気がつくと、そこはカリブ海に浮かぶ小舟だった
日焼けしたたくましい老人の漁師がいた
海と魚と漁のことは何でも知っている職人肌の男だ

「シイラだ」老人は言った
「でかいシイラがいる」

シイラは水槽内を優美に泳ぐような観賞用の華奢な魚ではない
しかし、見事な金色だ

俺はマグロを丸一匹食べた
明日にはシイラを食べるんだ
老人はシイラを「金色(ドラド)」と呼んだ。

老人の小舟はサメに取り囲まれている
気丈にサメと戦い続けながら、既に捕獲した魚を食べている

シイラは、ハワイ語でマヒマヒという名前だ
おそらく、ハワイのレストランで普通に魚料理で出てくるだろう

そのとき、シイラが勢いよく飛び込んできた
老人は、おお、釣れたぞ、と小声でつぶやいて、咳込んだ
ゴホン、ゴホン

いやよ、あっちへ行って!
いくら金色でも、こんなのいやよ
普通の水槽の金魚のほうが、よっぽどいいわ

すると、シイラは、さらに高く飛んだ
飛んだ方向は、16.3万光年離れた渦巻き状の銀河、大マゼラン雲のすぐ近くだ
そこは、いまでは、かじき座(ドラド)と呼ばれている

ゴホン、ゴホン、いつか、水槽の金魚にも夜空に旅立つことのできる日が来るのだろうか
(596字)

https://www.aozora.gr.jp/cards/001847/files/57347_57224.html

シロクマ文芸部の企画に参加させて頂きました。今回のお題は「咳をしても金魚」でした。どうぞよろしくお願いいたします。



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