時間がもったいない
松尾芭蕉が門人の河合曾良とともに東北地方や北陸・中部地方を歩いて旅をした旅行記が「おくのほそ道」です。その冒頭の一文「月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり」は非常に有名です。この書き出しに続き、芭蕉は本物の旅人の話をし、旅の途上で亡くなる人のことや、自分もこれから旅に出るのだといったことを述べています。
冒頭の百代の過客は唐時代の有名な詩人李白の詩「春夜宴桃李園序」に由来します。冒頭の太字にした部分に出ています。「夫れ天地は万物の逆旅にして、光陰は百代の過客なり」(1行目)は、「そもそも天地は万物を迎え入れる宿のようなもの、時の流れは永遠の旅人のようなものである」(私的意訳)ということですが、核心部分はその後です。「而して浮生は夢のごとし、歓を為すこと幾何ぞ」(2行目)は、「そしてはかない人生は夢のように短く、喜び楽しむ時間はどれほどあるだろうか」。3行目からあとに結論が続きます。簡単に言えば、せっかくの時間がもったいない、もっと楽しく過ごそう! ということです。楽しくとは、内容としてはいろいろなものが含まれるでしょう。要は、幸福感、満足度、充実感といったポジティブな感覚を伴うような、また、そういうことにつながるような活動です。そして、そのような楽しい時間こそ、大切な人たちと共有し、その記憶を蓄積したいです。
春夜宴桃李園序 李 白(李太白)
夫天地者萬物之逆旅光陰者百代之過客
而浮生若夢爲歡幾何
古人秉燭夜遊良有以也
況陽春召我以煙景大塊假我以文章
會桃李之芳園序天倫之樂事
群季俊秀皆爲惠連
吾人詠歌獨慚康樂
幽賞未已高談轉清
開瓊筵以坐花飛羽觴而醉月
不有佳作何之伸雅懷
如詩不成罰依金谷酒數
朗読の動画もなかなかよいです。
https://www.youtube.com/watch?v=1oyJv6Mu7oU
これを今風に言うとどうなるんだろう? と思いました。3年ほど前に、弥生美術館を訪れたとき、こんなイベントをやっていました。「命短し恋せよ乙女」、どうでしょうか。この「命短し」がポイントです。本当は、私としては、学問を志す、究めようとすることについても、同じくらいの「命短し」という感覚を持ちたい、持ってほしいと思うところです。
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群盲評象2020(580過去記事、2021年7月末まで)
本マガジンは、2019年12月29日から2021年7月31日までのおよそ580日分、元国立機関の研究者、元国立大学大学院教授の桜井健次が毎…
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