輪郭がぼける時

書く時間旅行って、それ本当なの?
ああ、本当だとも
人は過去へも未来へも行くことができる
そう、ただ書くだけで

だって、仮にそれがあるなら過去の事実を改竄できるんじゃない?
まだ起きていない未来のことを今から決められるってのは、ますます信じられない

そういう君は、いま現に書いているじゃないか
勝手に、その書いている内容が現在のことだと決めつけているようだな
ほとんどのことは、そうじゃないはずだ

少し前のことも含む過去について書いたりしているだろう
日記とか、記録とか、全部そうだろう
僕はそうは思わないが、悪く言えば、それは過去に起きたことに対するつまみ食い的な改竄でもあるのだろう

人によっては未来のことをもっと書くのではないかな
数千年も前から預言の書はあった
預言は、神様の計画の一部を説明するものだが、人の計画、自分の計画はそれこそ、そこらに満ち溢れているんじゃないか

現在と呼ぶ、その身近な時間帯の、いまのこの瞬間にだって、君の目の前にある無限の選択肢のすべてが、実際に選択可能なわけじゃない
その点において、過去や未来と呼んでいるものと不可侵性はたいして変わらない
第一、その現在とやらも、次の瞬間には過去に分類され、未来と呼んでいたものもすぐ現在になり、さらに過去に分類されるものだ

そんなことはわかっているよ
そうじゃなくて、現に起きていること・起きたこと・起きるだろうことと、自分が書いていることの関係、特に真偽関係が気になるんだ
だって、書いた通りになっている世の中なんて、すごく独善的じゃないか

まさに人は独善的に生きているんじゃないか
現に起きていること・起きたこと・起きるだろうこと、すべて、人が書く時、そこには解釈がはいるが、それはもともと一通りになんかならない
歴史は勝者によって書かれるって、そういうことだろう?
そして、ある程度まで、未来もその勝者によって方向づけられる

でも絶対的な過去のファクトは変えられないんじゃないか
ジュリアス・シーザーの暗殺をなかったことにはできない
広島の原爆投下をなかったことにはできない

もちろんさ
変えようとも思わないだろう?

小学生の時にいじめられてけがをしたことをなかったことにはできない
バツイチであることをそうでないようにはできない
会社の上司の方針が気に入らなくて、辞めたことをそうではないようにはできない

そうそう、いいポイントだ
ぜひ、そんなことを思うがままに書くがいい
深く、詳しく、細かくだ
それが書く時間旅行だ

きっと矛盾に満ちていると思うだろう?
そうじゃない、その矛盾が現実だ
そこでは、1日は24時間でさえない
水の中を歩くのと似たもどかしさがあるだろう
無限に近い多くのことをやっているのに、実はたいした変化は起きない
過去と未来は曲がりくねっているし、複雑な交差も突然のショートカットもある

そう、時々気づくこともあるんじゃないか
目の前の風景の輪郭が、なぜこんなにぼけているんだろうって
それは視力が悪くなったとか、じゃない
輪郭がぼけているほうが君にとって、しっくりくる正しい時間なんだろう
(734字)

2023年4月下旬頃からシロクマ文芸部の企画に毎週参加させて頂いています。2024年4月まで1年ぴったりの継続のつもりです。このところは土曜午前の投稿になることが多いです。今回のお題は「書く時間」が書き出しでした。どうぞよろしくお願いいたします。


初めての皆様へ

皆様には、桜井健次のエッセイのマガジン「群盲評象」をお薦めしております。どんな記事が出ているか、代表的なものを「群盲評象ショーケース(無料)」に収めております。もし、こういうものを毎日お読みになりたいという方は、1年分ずっと読める「群盲評象2023」を、また、お試しで1か月だけ読んでみようかという方は「月刊群盲評象」をどうぞ。毎日、マガジンご購読の皆様にむけて、ぜひシェアしたいと思うことを語っております。

ここから先は

14字

本マガジンでは、桜井健次の記事をとりあえず、お試しで読んでみたい方を歓迎します。毎日ほぼ1記事以上を寄稿いたします。とりあえず、1カ月でもお試しになりませんか。

現代は科学が進歩した時代だとよく言われます。知識を獲得するほど新たな謎が深まり、広大な未知の世界が広がります。知は無知とセットになっていま…

いつもお読みくださり、ありがとうございます。もし私の記事にご興味をお持ちいただけるようでしたら、ぜひマガジンをご検討いただけないでしょうか。毎日書いております。見本は「群盲評象ショーケース(無料)」をご覧になってください。