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リーディングシアター『四つの署名』2024年5月6日公演(古川雄輝・名村辰)レビュー

「セクシーなの♪キュートなの♪どっちが好きなの♪」
私の脳内あややが歌い出す。

理知的な佇まいから色気が零れ落ちるような古川雄輝のホームズ、愛されキャラ感溢れる名村辰のワトソン。朗読劇『緋色の研究』『四つの署名』は、俳優13名が公演ごとにホームズ役とワトソン役と組み合わせを変えて行われる。
古川・名村の2人が作り出すシャーロック・ホームズの世界観を味わえるのは5月6日、1日限りだ。

私にとって朗読劇鑑賞は初めての体験である。2人だけで、女性を含む多数の登場人物をどう表現するのか、そして自分自身が違和感を持たず入り込んで行けるのか、多少の不安がないとは言えない。
舞台で演者を待つのは、紅茶がセットされたテーブルを囲んでソファが2つ。袖から登場したホームズ役・古川雄輝はネイビーを基調としたシックな装いで、ロングジャケットが長身によく映える。対するワトソン役・名村辰は茶系のチェック柄スーツに蝶ネクタイ、ポケットチーフとイギリス紳士らしくも可愛げある衣装。
それぞれがソファに腰掛け、台本を開くと物語が始まる。

長い足(素晴らしく長い)を組んで座り、美しい手(素晴らしく美しい)でページを繰る古川の立ち居振る舞いは、それだけでホームズの知性と上品さを感じさせるのに十分だ。
だが、ホームズは最初の場面からコカイン注射をキメている。解決するべき事件がなくて退屈しているからコカインって、ええええええ。医師としての立場から薬物など止めろと説得を試みるワトソンは常識人で、知的興奮アディクトのホームズとの対比が鮮やかである。

理性を何より重んじるくせに、脳に対する刺激という快楽にはめっぽう弱い。ホームズが抱える二面性は天才探偵の人間らしさを感じられる部分でもあってかえって惹かれるし、コカインに耽る間の気怠い雰囲気はたまらなく色っぽい。冒頭数分で既にホームズに落とされちゃってないですか?私。
そこに事件の依頼人であるモースタン嬢が訪れる。

さて、ここからが朗読劇の本懐というべきか。モースタン嬢を演じるのは名村。可憐で守りたくなるような女性像を描き出す。
その先もストーリーの展開に合わせてさまざまな人物が現れるのだが、多様な役を2人の俳優が見事に演じ分けていく。
彼らはルックスからはもう自由になっていて、えっ、古川雄輝ってこんなゲスい喋り方できるんだ?!と驚かされる役あり、名村に至っては犬役まである(ワンしか言わせてもらえないのだけれど、ワンの言い方の変化が見どころのギャグシーンあり。大変愛くるしい)。
拝啓、開演前の私へ。全然心配いらないです、夢中で観られてます!!

面白いのは、途中でメタ的視点の小ネタが入って、モースタン嬢の演者が入れ替わる場面。
どこかか弱さのある名村モースタンと比べて、古川モースタンは芯があり凛としている。
それはたぶん、名村モースタンは彼女に恋をしたワトソンの心情を通して演じ、古川モースタンは数奇な運命を受け止め、事件の解決に冷静に協力する女性という、ホームズが受けた彼女の印象に乗せて演じられているから生まれる差なのだと思う。
もし、その他の役もホームズとワトソンというフィルターを通して演じられているのであれば、とても興味深い。
ホームズとワトソン自体も、台詞なのか地の文なのかで話し方のトーンは異なってくる。朗読劇の醍醐味ってこういうところなのかもしれない。

シャーロック・ホームズシリーズの推理小説として、冒険活劇としての魅力が、俳優2人の力でギュッと濃縮されて目の前に差し出される。
贅沢な1時間45分をマチネ・ソワレと堪能して、池袋サンシャインシアターで過ごす1日を終えた。
※敬称略

<公演情報>
リーディングシアター「シャーロック・ホームズシリーズ」
『四つの署名』
原作:アーサー・コナン・ドイル
脚本・演出:毛利亘宏(少年社中)
会場:サンシャイン劇場

日程・出演者:
5月6日(月・休) 13時『四つの署名』 古川雄輝 × 名村 辰
5月6日(月・休) 17時『四つの署名』 古川雄輝 × 名村 辰

公式特設HP https://toei-stage.jp/r-holmes/

主催:東映

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