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[佛教大学通信課程] オンライン授業は老若男女のカオス、だが、それがいい

[ #3 ]

オンライン授業が始まった。

まず、自分が思っている自分の姿と、スクリーンに映し出されたリアルな自分の姿の乖離にビビる。

そして、次々とモニターに映し出される、若者たちの中に、チラホラ自分と同じ歳くらいの顔を見つけて、心を落ち着かせ、ようやく授業に身が入る。

私はこう見えて、わりと目立たなく物事を終えたい人間なのだ。

だから、「実は私は今カナダに住んでて、時差のせいで夜中の9時から、日にちをまたいで朝の2時まで授業を受けてるんです」と、言わないですむなら、言わないでおこうと思っていた。

しかし、オンライン授業の醍醐味は、先生や生徒同士のディスカッションなので、どうしても会話していると、流れで「実は今、カナダに住んでるんです」って話になる。

まあ、驚かれるんだけど、生徒の中には、ほんまもんのアメリカ人や、中国人もいたくらいなので、それに比べたら、まあ、目立ち度はマシな方だと思う。

このオンラインの授業では、外国人の先生との、いわゆる英会話みたいなのもあったんだけど、私には目新しいことではなかったせいか、あんまり覚えていない。

生徒が意外とよく英語喋れることにびっくりしたことだけは覚えている。教員免許の取得を目指している人が多かったから、土台がすでにあるんだろうな。

私が、このオンライン授業で学んだことは、ふたつ。

まず、大学の先生って、なんか浮世離れしてる人が多いんだな、ってこと。

例えば、テキストに採用される教材も、ほとんどがその先生が長年研究している分野や、作家だったりで、
「こういうとこが〇〇(作家)独特の表現になってるんですね」
とか、
「〇〇は、どういった意味をここに隠していると思いますか」
とかいうようなこと聞くんだけど、

「この先生、この作家のこと何年も何年も研究してんだろうな。すげーなー」
とか、
「そんなこと言っても、実は作者はそんな意図ぜんぜんなかったりして」
などと、不謹慎なことを考えたりしてた。

ただ私にとっては、英米文学の歴史を、ただただ追ってレポートを書く、という作業よりはるかに楽しかった。

ある先生が、自身がイギリス旅行に行った時の写真を生徒に見せて、イギリス文学ゆかりの場所や建物を紹介してくれたんだけど、とある、おとぎ話に出てきそうなかわいい一軒家の写真を出して、
「この写真を見て、なんの文学作品と関連があるかわかりますか?」
と生徒に質問した。

さっぱりわからん。

フェンスの模様とかが特殊だったので、それに何か秘密が隠されているのだろうか、とか、いろいろ考えた。

「わかりませんか? 誰もわからない?」

けっこうな時間をさいたけれど、誰も答えられなかった。

正解は、
『ピーターラビットのこの挿絵の家のモデルではないかと言われています」
と言って、その挿絵を映し出した。

.....わかるか!(笑)

まあ、それくらい浮世離れしてるってこと。

いや、ほんと、けっこう授業はおもしろいのよ。
一般人に取っては、ただの通りすがりの一作家でしかないのに、本当に先生達ったら、それはもう情熱大陸なのよ。

それから、オンラインの授業では、よく、3、4人のグループに分けられて、内容についてディスカッションをするっていうのが、しょっちゅうあるのだけれど、そのグループ内に、引っ張っていってくれる人がいない場合……お通夜になる。

そもそも文学について、初対面の人とモニター越しで突然話せと言われても……だ。

若者は、まだ恥ずかしさと、遠慮で話しかけられない。
おじいちゃん&おばあちゃんと言われるくらいの年齢の人もいたりするけど、気後れするのか、だいたい様子を伺っている。

そこで、私を含む、おじちゃん&おばちゃんの出番なのだ。

たぶんだけど、中年になってまだ、資格を取ろうだの、学位を取ろうだの思う『おじ&おば』は、だいたい図々しいし、肝っ玉が座っている。

「はいはいはいはい。シーンとしてても埒あかないから、私から始めるね〜」
みたいな感じで、サクッとお通夜をぶち壊す。

若者の学生さんたちも、一旦始まってしまえば、案外、サクサク意見を言ってくれるのがまた不思議。

大抵の学生は通学の大学に行くなか、通信を選ぶのは、それなりの理由があるんだろうけど、なかでも、何人かが高校や、大学でうまくいかず、通信で勉学を続けることを選んだ、と話してくれた。

そんな子たちは、おとなしいながらも、きちんと予習してきたり、賢い感じの子が多かった。

何にせよ、これからの未来のために、それぞれの目標、資格なり、学位なりを取れるように、遠いカナダの星空の下で祈っている、そんなオババがここにいる。

まあ、そんなこんなで、私は卒業までオンラインの授業をあと三つを残すのみになったのだ。

〜続く