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ボードゲームで死にそうになったことがある

日本で大人が集まる時って、たいがい、飲みに行くとか、食べに行くとか、もしくは、ネットゲームとかアウトドアとかの趣味を共有する場合が多いと思う。

ところが、それに加えて、こっちでは誰かの家で集まることも多い。もちろん、そこで飲んだり食べたりもするんだけれど、ひとしきりお喋りタイムが終わると、ゲームをすることが結構ある。

いわゆるコンピューターゲームじゃなくて、人生ゲームとか、モノポリとかの箱に入ってるたぐいのやつ。あと普通にトランプも。

例えば『Pictionary』というゲームは、ふだにお題が書いてあって、それを絵で描いて当てるゲームで、『Charade』はジェスチャーで当てっこする。

みんな飲んでも、そんなに変わらないとはいえ、だいぶご機嫌にはなってるから、けっこう盛り上がる。

あと、気がついたんだけど、「盛り上がる」要素のひとつとして、みなさん「本気で勝ちにいく」ってのがあると思う。

場をつなぐ、とか、時間潰し、の域を超えて、まじめに勝ちにいく。

私なんか学生時代も帰宅部で「競り合う」とか、「勝ち負け」を避けて生きてきた人間なので、飲んだ後に、なんの賞金もでない争いで熱くなること自体がピンとこない。

もちろん、自分の贔屓のスポーツチームとか、日本チームの試合は熱くなって観戦するけど、こと、自分に関しては「勝ちたい!」「勝つんだ!」という気持ちは薄い。

そんな中、一時期、グループの中で『Pictionary』とか『Charade』のゲームを一緒くたにして、人生ゲームみたいに上がりを目指す『Cranium』っていうボードゲームが流行った。

『Pictionary(お絵かき)』や『Charade(ジェスチャー)』の他に、雑学クイズとか、ハミングで曲名を当てる、とかのお題が加えられている。

まあ、とりあえず、お題の種類がなんであれ、日本生まれ、日本育ちの私には厳しいゲーム。

「私、見てるだけで楽しいから、みんなでやってよ」
って言うんだけど、妙に気を遣ってくれて、なんとしてでも参加させようとする。

でも、それこそ無理ゲーなのよ。

例えば、お題が映画のタイトルの場合、
「欧米の映画って、たいていタイトルが日本語になってるから、無理だよ」
と言っても、
「日本語になってるなら、英語に訳し戻せばいいじゃん?」
と言われる。

でも日本には『邦題』という壁があって、例えば『An Officer and a Gentleman』が『愛と青春の旅立ち』になっちゃう世界なんだもん、わかるわけない。『TOP GUN』とかならいいんだけどさ。

雑学も、アメリカがらみの雑学だから無理。

でもいつも押し切られて、私の番の時は、私がお題をちゃんと理解できてるか同じチームの人に確認してもらった上で始めるという、超絶めんどくさい特別ルールで参加することになる。

「いや、そこまでして参加しなくっても......」と言う意見は軽く無視される。

まあ、唯一、まともに戦えるって言ったら、学生時代の落書き大将だった腕で、Pictionaryだけは絶賛されたけど。

人生、どんなところで、どんなものが役に立つかわからんもんだ。

そんな私にPictionary以外で、スポットライトが当たる日がやってきた。

ハミングで、曲名を当てるやつで、お題は、私の好きなThe Knackの『My Sharona』。

あの、
ズズズズ、ズンちゃ、ズンちゃ、ズズちゃ、
ズーズズズ、ズンちゃ、マイ、シャロナー♪

ってやつ。

なぜか「これならイケる!」って、思っちゃったんだよね。

珍しく私が、Pictionary以外をやるってことで、まわりのみんなは固唾を呑んで静かに待っている。

そして、頭の中で、例の前奏を奏でながら、
ズズズズ、ズンちゃ、ズンちゃ、ズズちゃ、
のパートを高らかにハミングした。

つもりだったが、

ズズズズ、ズンちゃ、ズンちゃ、ズズちゃって、ハミングできないのよ。

なんか、もちが喉に詰まった人が、必死で取り出そうとするみたいになって、ぜんぜんうまくいかない。

ん、ふ、ふ、ふ、ん、ふ...
ついでに息も続かない。

もちろん、まわりも、
「ん? なんだ、なんだ?」
って顔になっている。

自分でも、これで、わかるわけないと思っているが、再度、チャレンジ。

ん、ふ、ふ、ふ、ん、ふ...

周りの人、全員の目がパチクリしている。

仕方がないので、一番有名な「マイ、シャロナー♪」のとこだけハミングしてみる。

ん、ふふふー

いや、より一層わからんだろ。

真剣にやってるんだけど、笑いも込み上げてきて、余計に息ができない。

途方に暮れていたら、ようやく感のいい子が、
「My Sharona!」
と言ってくれて、死なずにすんだ。

みんな優しいから、その後「いけてた、いけてた」って慰めてくれたんだけど、何の助けにもなりゃしない。

そしてコロナ以降、みんなで集まってゲームすることもなくなってしまった。

暇な人はぜひ、My Sharonaを聴いて、ハミング挑戦してみてほしい。