子供の似顔絵
2歳になったばかりの息子が、一生懸命に紙切れにボールペンで何かを書き付けていて、しばらくすると出来上がったのか、僕にそれを渡してきた。
「パパ!パパ!」
どうやら僕を描いてくれたということらしい。そこには青いボールペンで、まあ正直、陰毛のような線がたくさん書かれてあった。
僕はそれを受け取ると「ありがとう」と彼の頭を撫でながら笑って言った。
***
あれは僕が幼稚園の頃のこと。(どうしてそんなに昔のことを覚えているのだろう。鮮明に思い出せる。)
母の日が近いということだったと思う。自分の母親の絵を書く時間があった。
自分のクレヨンを用意して、大きな画用紙を前に、僕の手は全く動かないでいた。
そもそもあまり絵を描くことが得意ではなかったし、なにせ母親の顔が全く浮かばなかった。
結局僕は、前の席のまゆこちゃんの描く絵を真似て、前髪にくるくるのパーマをかけた、紫のアイシャドウの、真っ赤な唇の母親を描き上げたのだった。
当たり前だけど、もうほとんどそれは、まゆこちゃんの描くまゆこちゃんの母親だった。
どうしてあの時、ちゃんと母親の顔を描けなかったのだろう。
化粧はほとんどしていないくらいに薄く、老人ホームの夜勤で疲れていて少し隈のある、そのままの母親を描いてあげられなかったのだろう。
そんな絵を渡されて母親はきっとショックだったんじゃないか、と今でも思うけど、確か母親はその僕の絵を見て、上手だねと褒めてくれたのだ。
明らかに自分ではないちょっとケバケバした女の人の顔が描いてあるその絵を。
僕の心配をよそに、母親の心境は僕が息子に陰毛の絵を渡されたような心境だったのかもしれない。
だとしても、やはり申し訳なかったなと思い出す度に思うのだ。
なんだかずっと(だいぶ長いけど)その時のことが引っ掛かっていて、だからこそ容易に思い出せる、忘れられない思い出になってしまったのだろうか。
そんな思い出を語りながら、母親に正直に詫びてしまいたい気持ちはあるけど、ましてや今さらそんなこと出来ないのが親子の面倒なところだ。
えっと、母親の誕生日か、もしくは母の日はいつだったっけ。
そうやって、言い訳に出来る、何かの機会を探してみている。
読んでくださって、ありがとうございました。
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