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宇宙論☆講座の変形合体ミュージカル『LOVEマシーン2021』への感想

『LOVEマシーン2021』
作・演出 五十部裕明と宇宙論☆講座
会場 王子小劇場
出演
内藤ゆき、新成亜子(宇宙論☆講座/秘密のユニット)、江原パジャマ、枯山水荒らし(宇宙論☆講座)、ぺけ(宇宙論☆講座)、長谷川まる、伊藤あすか、チハライズドリーム、【土曜のみ出演】稲見和人(宇宙論☆講座、【土曜以外出演】 芝もなこ(劇団YAX直線) 、市川賢太郎(肉汁サイドストーリー)、五十部裕明(宇宙論☆講座)、新井宗彦(突然段ボール)

 富豪である船越英三郎は家政婦であり婚約者の松居一代と邸宅で過ごしているがそこで見ず知らずの男女がキスをしていた。警察を呼ぼうとしているとそこにキスをさせる専門の男がやってくる。実は英三郎と一代は婚約者にもかかわらずキスの経験がなかった。一代が一貫してキスを拒んでいるのである。
 こうして集まった男女五人はやがて大きな存在へと向かっていく。

 音楽家五十部裕明のソロユニットが劇団化してから初の劇場公演、そしていきなりの王子小劇場進出作となるわけだ。劇場に入って目に入るのは、楽器隊と巨大な流しそうめん機、モニター、あと・・・何だこれ?四角い箱みたいなのとアルミホイルの塊みたいなよくわかんない何かが色々ある。
 新成さんの前説、もうすでにかなりのカロリーを使ってそうな渾身の前説をしながら床掃除。ゴミは謎の四角い箱に、ごみ箱だったのか。
 モニターには控室がリアルタイムで映し出されている。開演時間がきても準備が整わないと叫ぶ映像が映し出されるが勿論これこそ本編の始まりであり、そのままミュージカルへと移行する。
 
 変形合体とは人が口を尖らす変形をした後別の人と合体、口をくっつける。そうつまりキスミュージカルということなのである。
 劇中において実は、キスについてのオムニバスであることが明かされる。キスができない富豪の話という枠の中で間接でないとキスができない男、キスで男を殺す女暗殺者、3歳にしてありとあらゆるキスを経験した宇宙人、そして婚約者がなぜキスを拒むのか、という話が描かれていく。
 劇中キスをするたびにモニターのカウンターが100から一つずつ減っていく。ゼロになった時、一体何が起こるのか。

 キスをテーマにした物語の数々は宇宙論らしい奇想に溢れていて、しかし純愛というテーマが貫かれている(のかなぁ?)。
 王子小劇場という空間を利用した2階からそうめんを流す演出や、モニターで控室とつなげる試みは流石の演出力である。
 エキセントリックな登場人物、富豪は蛍光塗料たっぷりで暗くなるたびに光る。
 殺し屋を演じる新成は前説で緑色の着物を着ているが、本番前に脱ぐので特に意味がないのかと思いきや実は殺した人間の緑色の吐しゃ物にまみれて緑色になったという設定で再登場する。どういう伏線だよ。
 生演奏をメインにした音楽シーンは初心者たちが集まり(パンフレットにそれぞれの担当楽器のとその楽器歴が記載されているが、ぺけさんの≪太鼓(1日)≫はそれはただ叩いているだけの人じゃないのか?)カオティックな空間を形成している。そんな中アングラ界の大御所、ロックバンド突然段ボールのドラマー荒井宗彦氏が参加。フジロック出演バンドのメンバーが何故?流石のドラムテクニックでしっかりとした基盤を築いていた。五十部さんのピアノと合わさり美しい世界を形成していた。
 音楽は最高、しかし歌詞は最低。いつも通りメタネタや下ネタをたっぷり含ん楽曲群は中毒性高い。
 流石の力技で大いに笑った。王子初進出は成功したのではないかと思う。

 では、この作品が大成功かというと個人的にはそうではない。 
 宇宙論☆講座という劇団はその滅茶苦茶加減に目が行きがちだが実のところ割とストーリーテラーな団体なのである。
 最高傑作『生ビールミュージカル』(2019)は代表的なイベントである飲酒公演を全公演で行うというもので舞台上に生ビールサーバーを置き公演中観客と出演者が生ビールを飲みながら行い最終的には観客も出演者も泥酔した状態になる。しかし話の内容としては、若くして亡くなった女性の葬式で俺が殺したんだと叫ぶ男が現れる発端からどうしてその女性が死ぬことになったのかというのが描かれる一種のミステリー仕立てになっている。そして、その死には生ビールが関わっている。
 宇宙論☆講座はこういったシリアスで残酷な物語を徹底的にふざけた演出でコメディとして描く劇団である。ナンセンスというよりも悪趣味である。まぁ『島田のかなまら祭りDX』(2018)のような全編コメディ作品もあるけど。
 それに対し今回は大きな筋はあるがオムニバス形式なので、それぞれの物語が軽く独立している。一つ一つは出来がいいけれどもそれをまとめるとどうしても一本物語をやるのと比べると弱い。それに加え本編と上演の境界があいまいになる演出もいたずらにわからなくなるだけのように思えた。五十部の脳内を見ているかのような酩酊感を加える効果はあるが今回のオムニバス形式ではあまり効果的ではなかったように感じる。
 これが効果的だったのが『やばい覚せい剤』(2019-2020)で、前説が劇中で何度もリフレインし舞台とリアルの境界があいまいとなり、ラリった物語を強化していた。
 
 物語は、婚約者が実は反町隆史に操を立てていたからキスだけを拒んでいたというのが明らかになる。最終的に富豪はフルートとなる。そして、一代を除いた登場人物たちは変形合体して反町隆史になる。つまりフルートは反町隆史なのである。一代とフルートの反町隆史は100回目のキスをし、カウントが0となり物語を終える。
 このラストシーンは流石という感じなのだがオムニバス形式のせいで、富豪と一代の物語が甘くそこまでのカタルシスがなかった。メインヒロインの一代を演じる内藤ゆきはパワフルな演技をしているのだが女殺し屋を演じた新成の方が圧倒的に目立っていて影薄くなっていた。こういう登場人物のバランスの悪さが目立っていたのも確か。

 音響面では、マイクがあまり活用されているような気がせず演奏にセリフが消されている部分もあったがまぁ、飲酒公演見ている実からすると宇宙論ならいいかなという気がする。これはすごいぞ他の劇団なら酷評で終わる要素が宇宙論は笑って済ませられる。
 また、過去作と比べると舞台美術が大分シンプルとなり洗練されてはいるのだが劇中写真撮ってOKの恒例行事でもあまり連写できるようなシーンがなかったのもうーんという感じ。(まぁ、今回はキスシーンや生バンドが舞台美術の代わり何だろうなという気はするけど)  

 個人的な面白ポイントとしては、五十部さんは作・演出だけど台本を見ながら演技をしているのだがブラックライトを使うシーンではこの台本が眩く光って役者よりも目立っていた。他団体だったらそういう演出だとわかるんだけど、宇宙論はマジなのか演出なのか見分けがつかない。
 今回王子進出で初見のお客様が多いように見えたが、何回かガチで事故ったように見せるシーンからミュージカルに入るところがあって所見のお客様にはかなり決まったんじゃなかろうか。ただ、何回も見ている私でも(だからこそ?)本当の事故という可能性を捨てきれないのが魅力である。
 
 ともあれアングラに宇宙論ありと名前は知れ渡ったと思うのでファンとしてはもっとやりすぎてほしい。

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