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2020/11/05読書メモ

『人が人を裁くという』小坂井敏晶⑦

蓄積された記憶はそのまま維持されるのではない。新情報との接触を通して常に再解釈され、更新される。多くの場合、我々は幼少時の出来事を実際には覚えていない。しかし、親から同じ話を何度も聞かされるうちに、あたかもその情景を幼児の頃から覚えていたような錯覚ができあがる。
記憶は時間とともに再編成される。だから、最も新しく更新された記憶内容が一番強い現実感を伴う。
ハリスは犯人ではないと断言した事実を被害者女性は忘れ、犯人に間違いないと初めから確信していたのだと、後になって思い込む。捜査段階で何度も面通しさせられたり、ハリスの写真を見る過程で、無意識のうちに記憶が捏造されていく。記憶の確信度が目撃内容の正確さとあまり関係ない理由は、こうした認知プロセスにより記憶が再構成されるからだ。
これは目撃者だけでなく、警察官や検察官にも当てはまる。これは人間すべてに共通する基礎的認知プロセスだから、職業訓練を施しても防止は難しい。人間の能力を過信してはいけない。

(そういえばUFOに誘拐されたとかいう人のTV番組が放送されると、自分もUFOに誘拐された記憶がよみがえったとか言いだす人間が何人も出現するという話を聞いたことがあるが、こういう認知バイアスの一例なのだろうか。映画のエクソシストをみて、悪魔に取りつかれたことがある、とか言い出す人もいるとか。様々なバイアスに影響を受ける人間の記憶は信用できないのだから、何事も記録を残しておくことが重要か。個人の手帳から歴史書まで、記録が将来のリスクに対する保険になるのではないか。)

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