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【What We Did on Our Holidays】(1969) Fairport Convention 英国トラッドの萌芽をみせたサンディ・デニー参加1作目

フェアポート・コンヴェンションにとって、1969年ほど激動の一年はなかったかもしれません。この年に発表した新録スタジオアルバムは実に3枚。順を追っていくと、バンドが徐々に自国のブリティッシュ・トラッドフォークに舵を切っていく道程がよく分かります。

フェアポートと言えば、そのブリティッシュ・トラッドを完全エレクトリックでロックに料理した【リージ・アンド・リーフ】が画期的な作品として有名ですが、私は本作の方が気楽に聴いていられるんです。
リードボーカルにサンディ・デニーを迎えた1969年最初の作品。米国テイストと英国風味が混じりあった香ばしいブレンド紅茶のようなフォークロック。なかなかの名作です。

英国盤裏ジャケット

本作はフェアポート・コンヴェンションの2ndアルバム。前年にレコードデビューした直後に初代リードボーカルのジュディ・ダイブルが脱退。後釜にサンディ・デニーが加わった1作目となります。

録音時のメンバーは、

サンディ・デニー(vocal, guitar, organ, piano)
イアン・マシューズ(vocal)
リチャード・トンプソン(lead guitar)
サイモン・ニコル(electric & acoustic guitar)
アシュリー・ハッチングス(bass)
マーティン・ランブル(drums)


初期フェアポートは、ほぼ米国フォークロックの模倣といっていいサウンドです。レパートリーにはオリジナル曲の他にジョニ・ミッチェル、ボブ・ディラン等のカバー、ブルースの古典など。男女ボーカルがフロントを務めるスタイルから、英国のジェファーソン・エアプレインなどと呼ばれたのも頷けます。

但し本作では、初めて英国トラッドフォークを収録(2曲)しており、バンドの新たな一歩を記しています。おそらくサンディ・デニーが持ち込んだのでしょう。彼女はこうした古い伝承歌に非常に造詣が深く、メンバーの前で歌って聴かせたそうです。結果的にこれはバンドの道標となり、その後を左右していくのですから運命とは分からないものです。

本作はその序章で、全体ではまだまだ方向性の定まらないフォークロック然とした音です。民主主義的にメンバー全員の自作曲を収めるなど雑多な感触になっているのも、後のフェアポートには無い面白さですね。

(アナログレコード探訪)

英国盤ジャケットは、バンドがエセックス大学のライブの際、楽屋として使った教室の黒板に実際にメンバーが書いた落書らしい。そのまま採用。
個人的にセンスあると思うのが米国盤ジャケット。
タイトルは【Fairport Convention】に変更。
落葉がイイ。(discogsより)


英国アイランドの2ndレーベル盤(69年プレス)
マトリックス2/3
英国アイランドの4thレーベル盤(70~75年のプレス)マトリックス3/4

私が所有する英国盤2枚を紹介します。
上はアイランドが1969年に僅か3ヶ月だけ使ったとされる2ndレーベル、通称ブラック・ボール盤。ほぼ初回盤とみていいと思います。英国盤らしい太く存在感のある音ですがこれは歴代オーナーの扱いが雑だったのか、全編でうっすらノイズを伴うダメージ盤。心なしか音もボヤケて残念。

下は70年代始めの後発盤。若干軽くなるものの、音のレンジは広くて見通し十分。何よりノイズが無いからストレスなく聴ける……と思ったらA面4~5曲目にかけて周回ノイズを起こす長いキズを発見!これ見つけた時はショックでした。古い盤は兎に角コンディション要注意ですね〜。


Side-A
① "Fotheringay"

フォザリンゲイ城で処刑されたスコットランドの女王メアリーを描いたとされるサンディ・デニーの自作曲。彼女が後に結成するバンド名にも使われています。
物悲しいマイナー調のギターアルペジオに哀愁味あるメロディ。サンディがバンドに持ち込んだ深い英国センスがこの1曲から伝わってきます。

③ "Book Song"

イアン・マシューズとリチャード・トンプソンの共作曲。歌はイアンとサンディ。ワルツのリズムに乗った牧歌的なメロディが印象的ですが、リチャードの弾くシタール、テープの逆再生らしき音も入っており、サイケデリックの残り香もそこはかとなく…。

Side-B
① "Eastern Rain"

ジョニ・ミッチェルのカバー。タム回しを活かしたドラムにハープシコード、ダルシマーなど重ねたオリエンタル?な世界です。サイケデリックからの影響とは言え、こんな無国籍な音も初期フェアポートの面白さです。

④ "She Moves Through the Fair"

B-② "Nottamun Town" とこちらが英国トラッドからの出典。何と言ってもサンディ・デニーの歌に惹き込まれます。独特のビブラートと節回しがトラッドシンガーの何たるかを知らしめています。まさに圧巻のパフォーマンス。日本の演歌歌手にも通じるこぶし回しですね?? 悠久の時を超えて、トラッドに生命を吹き込むような名唱……壮大なイメージが湧き上がります。


⑤ "Meet on the Ledge"

リチャード作によるフェアポート・コンヴェンションを代表する一曲。変哲のないフォークロックですが、覚えやすいサビなのでつい歌いたくなります。コンサートではほぼラストを飾る屈指のバンドアンセムです。

ここから益々英国トラッドへ邁進していくフェアポート。それ故に脱落していくメンバーも出てきます。本作の可能性に満ちた作風からすると、メンバーには一番楽しい頃だったように思えますね。

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