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【Takin' It to the Streets】(1976) Doobie Brothers 大変貌を遂げた後期ドゥービーの1作目

昨年(2023年)4月にドゥービー・ブラザーズの武道館公演を観に行ってきました。トム・ジョンストンとマイケル・マクドナルドの両雄が並び立つと知って、友人の誘いに即答で快諾。あたかも2つのドゥービーを観ているような贅沢なステージには感激でした。こんな時代が来るなんて…。音響はイマイチでしたが、充実の内容でしたね。

さて、前期と後期の時代に分けられる70年代のドゥービー。トム・ジョンストンが仕切る豪快なアメリカンロックから一転、ジャズ、ソウルに影響を受けた都会的なサウンドへと変貌します。そのマイケル・マクドナルドが主軸となった後期の出発作が本作【邦題:ドゥービー・ストリート】でした。

私は正直トム派なんですが、表題曲 "Takin' It to the Streets" の魅力には抗えません。ドゥービーの新時代だけでなく、西海岸ロックの移り変わりを象徴する名曲。ジワジワと盛り上がる高揚感に煽られますね〜。

バンドの6作目となる本作、前作【スタンピード】と比べると物凄い変わりぶりです。ドゥービーは1976年1月に初来日していますがこの時まだ本作は未発売(発表は3月)。当時の公演レポートによれば、大した情報も掴めず予備知識もなく観に行ってみると、レコードと全然違うドゥービーの音に戸惑ったとか。なるほど、そうでしょうね(笑)。

トムが病気で活動離脱(胃潰瘍だったとか)したことで、ジェフ・バクスター(guitar)繋がりだった元スティーリー・ダンのマイケル・マクドナルドが参加。当初はツアー要因だったものの、歌が歌えて、曲が書ける彼の才能が見込まれて、バンドの中核として収まっていきます。この決断がバンドの命運を変えるのですから分からないものですよね。

トムが2歩も3歩も引いて余白が出来た分、本作はマイケル以外のメンバーにとっても試作の場になったように思います。バンドの危機的状況を経て、ここから都会的で洗練されていくドゥービー…。もしトムがあのまま元気でリーダーを務めていたらどうだったのか?? 果たしてバンドはこれほど名を馳せたのか?トム派と言えども考えてしまう、皮肉で画期的な1枚です。


(アナログレコード探訪)
〜ドゥービーは常に高音質です〜

米国ワーナー・ブラザーズの初回盤

本作の米国盤は音質抜群。腰が座って高音もキレイな良音盤です。ドゥービーのアナログ盤は初期から音が良いですね。レコード会社が録音にお金をかけていたのでしょう。
この有名なワーナーの街路樹デザイン、通称バーバンクと呼ばれるレーベルは、1973年から1978年まで使われ、細部の違いから第四期まで分かれるようです。その中の1つが、上部のワーナー・ブラザーズのロゴ・マーク。デザインが変わってるんですよね。

1975年までのロゴ
1976年以降のロゴ

白抜き盾形のデザインから、黒字で大ぶりのデザインへ。これ、意外と気付かないものです。1975年作品に関して、初盤か否かの判断となって役に立ちます。

〜ワーナー1万番台、特級レベルの日本盤〜

ワーナー・パイオニアの日本初回盤

さて、この日本盤が問題なのです。初めて聴いた時に私は耳を疑いました。段違いに音が良いのです!左右ステレオから各パートが明瞭に浮き上がり、立体的に音が鳴り響く最高の音質。米国盤を更にアップグレードしたような驚愕の日本盤です。本国スタンパーから起こした形跡はなく、正真正銘の日本プレス盤というのも驚き。

多少リバーブの掛かったフワッとした音ですから操作したのでしょうが、それにしても日本盤とは思えないハイファイな音質です。巷でワーナー・パイオニアの8000番台が良音と言われますが、いやいや、1万番台も十分に音が良い証拠となる1枚だと言えます。

私の調べたところ、ワナパイは75,76年から急に高音質な盤が散見されます。謎が多いのですが、おそらく同じエンジニアが担当したのだろうと想像しています。日本盤の優れたサンプルとして、本作是非とも御一聴ください。

Side-A
① "Wheels of Fortune"

シャープなギターでスタート!新生バンドへの意気込みが窺えるタイトな演奏が光る一曲です。ダブルドラムは、ジョン・ハートマンと何とリトル・フィートのリッチー・ヘイワードの2人。間奏ではタイラン・ポーターのファンキーベースに、ギター、エレピが絡みつくジャズ系のスリリングな展開。これまでのドゥービーを払拭するようなインタープレイがカッコいいです。

Side-B
① "Rio"

パット・シモンズ、ジェフ・バクスター共作のタイトル通りブラジル音楽を意識したナンバー。2コーラス目に一節だけ登場するマリア・マルダーの歌が艶っぽいです。クールなフュージョン系とサンバのビートを掛け合わせた涼しげでお洒落なサウンド。メンバーの気ままなセッションから発展したような奔放さが伝わる一曲です。

③ "It Keeps You Runnin'"

マイケル・マクドナルドの漂白されきったブルー・アイド・ソウルが私は苦手なのですが例外的にこの曲には惹かれます。醒めたエレピ、サビのコーラスの反復が癖になるようです。昔、風邪で熱にうなされた夜中に延々と頭に鳴っていたことを思い出します笑。

④ "Turn It Loose"

本作唯一のトム・ジョンストンによる従来の豪快ロックンロール。アルバムではひときわ浮いてしまっていることは否めません。それでも当時のライブ映像を観る限り、まだまだ元気に男臭さを発散するトム。その胸中はいかばかり…。

去年の来日公演を観ていると、マイケル・マクドナルドも歳を重ね、ブラックミュージックへの愛情が先祖返りした、より黒いものになっているように感じました。あんなに相容れないと思われたトム・ジョンストンとの個性の差も、実のところ表現の仕方だったのかなぁとシミジミ観ておりました。

渋味が出た近年の "Takin' It to the Streets" 。歳を取ることは決して悪くないですね。音楽への愛情と奥深さを教えてくれます。



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