老い、30年後の自分

今月、5月20日。
父からこれから検査入院すると電話があり、とりあえずかけつけると、その日は帰宅し、翌日改めて入院となった。
これから病院を出ようとした時からの話である。

「薬もらうの時間かかるんだよなぁ」

もっともなことだ。医療機関のすぐそばにある調剤薬局はとても混む。
父は朝に病院に来て、点滴などを受け、解放された現在夕方の5時。
とても疲れているはずだ。ゆえに提案した。

「とりあえず、家まで行くから、帰って休んだら?薬はすぐに俺がどこかの薬局に行ってもらってくるから」
「明日もここ(病院)に来るんだから、そこの薬局が一番近いだろう」

噛み合っていない。諦めて、向かいの薬局へと向かう父の後を追った。
追ったといっても追いつかないように歩いた。
幸い他に薬を待っている人はなく、10分程度で用は済んだ。

二人で私の来るのに乗り込む。

「福島に保証人のお願いの電話したら?」

福島とは叔父の通称である。我が家は住んでいる地名で親戚を呼ぶことが多い。
明日の入院にあたって必要な書類に保証人の欄があったので叔父に頼むことにしていたのである。
ちなみに私は同世帯なので保証人にはなれないと病院から説明された。

「保証人は杉目君に頼む。二人もいらないだろ」

杉目とは福島の叔父の名前である。

「だから、福島の杉目の叔父さんに電話しようよ」

父の顔は微動だにしない。諦めた。

「いいから、叔父さんに電話しなよ」

父は電話をかけた。叔父は出ない。当たり前のことだ。叔父はまだ勤務時間である。
父は今度は叔母に電話をかけた。コール音が続く。父は電話に向かって悪態をつく。
留守番電話のメッセージが流れ始めた。

「いっつもこの時間出掛けてやがる」

当たり前だ。叔母は主婦だ。平日の夕方に暇なわけがない。
父は用件を吹き込んで電話を切った。
すぐに叔母から折り返しの電話が来た。そりゃ、実の兄が入院となれば慌てるだろう。
叔母に用件を伝え、これからそちらを訪問したい旨伝えると、わざわざ大変だろうから、逆に我が家に来てくれるという。
電話を切った父は私に言った。

「福島が来てくれるってよ。助かったな」

それを聞いた私は、のんびりしてはいられないとエンジンをかけた。

帰路、唐突に父は毒づいた。

「こんな時間にせわしない」

いまなんて言った?せわしない?わざわざ叔父と叔母が気を遣って来てくれるのに?
それに、さっき助かったと言っていたじゃないか。

実はここまで、他にも私は父との些末な、しかし沢山の噛み合わない会話をしていた。
恐らく私は悪くない。体の弱った父が明日から入院だというのだ。普段は無愛想な自分とて労わってやらなくてはと考えてしまう状況だ。
イライラもとっくにレッドゾーンに突入している。
しかし、歯をぐっと食いしばり我慢、いや、諦めた。

将来、自分もこうなるのだろうなと考え、彼の女性に申し訳なくなった。
長い長い田舎のまっすぐな道路を、怒っていることを隠しながら走った。

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