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私はこうして逮捕された@羆

割引あり

2020年7月23日。後ろ向きに走る時速300キロのトイレ。仙台を出て最初の駅、白石蔵王を通過すると急に加速した。腰縄を引っ張られた反動で便器につんのめった。フンッといかつい男達が鼻を鳴らす。尿意を催して連れていかれた個室で4人の男たちが腕組みをして睨んでいる。全員入れず、ドアは開いたままだ。

新品のトイレットペーパーのロールより太い腕をワイシャツから覗かせる。というか、自慢げに見せつけてくる。目障りだ。

「自分、はよおせい」自分?Youのことか?「洋式便器に向かって立ち小便せい」若手の捜査員に命じられた。両手には黒い手錠がはめられている。

チャックを開けるのも不便極まる。刻印された、おなじみの桜の御紋が実に恨めしい。困っているのを片頬を歪めて喜ぶ顔が並ぶ、角刈りが口々に言う。

「ちっちゃい、ちっちゃいのお」京都弁は強調する時、同じことを2回言う。パンダの名前かよ。「小小」ならシャオシャオか?

「自分、どエライことやらかした割にはお粗末やのお」「ほんまや」角刈り達が笑う。上司の冗談に若手も追従した。

粗を拾って凱歌を挙げる。「逮捕を行うに当たっては、感情にとらわれることなく、冷静沈着を保持する」(犯罪捜査規範126条)なんてどこ吹く風だ。

サムシングの大きさは逮捕される理由になっていない。責められるいわれがどこにある。体育会系のノリか、京都流のきつい冗談か。先々を考えて頭が痛くなった。

犯罪者をとっ捕まえる正義の味方は無敵だ。たしなめる人はいない。ドラマ「相棒」なら監察官が出てくるが、こんなやりとりは黙殺だろう。

他人の身体的特徴をけなしても許される。「股間は極小サイズ」とでも捜査報告書に書くつもりか。規範の9条に「秘密厳守」とあるだろうが。

尿線が細くて排尿に時間がかかる。「めっちゃショボいな」「使いものにならへん」「自分、子どもおったな」「人工授精やろ」外見もさることながら、機能面までバカにする。

高笑いは小学生と変わらない、下世話なトークは表に出てこない。

手も洗わせてもらえずに、多目的室に戻された。2畳くらいの狭い部屋だ。奥に座らされ、両脇どころか壁以外の三方を警察官が取り囲む。

勝ち誇った捜査員が入れ替わり立ち替わり現われる。刑事とは自分は呼ばない。検事を真似て刑事なんだろう。そんな官職はない。「司法警察員」だし駆け出しの「司法巡査」もいる。

テレビが「司法警察員ドラマ」では不細工だ。犯罪にまつわるから「刑事」だろう。「民事ドラマ」はないだろうが、捜査員の物語ではある。

「な、自分。殺してみたかったんやろ?」「パクられてどういう気分や?」公共交通機関の新幹線で取り調べスタートだ。彼らの見立てやキャラ設定を示して同意させる口調だ。

「自己が期待し、または希望する供述を相手方に示唆する等の方法により、みだりに供述を誘導」している(規範168条)も知らんぷりだ。

そもそもここは取調室ではない。黙秘権の告知もしていない。弁護士に接見させないうちからあれこれ聞き出そうというのは違法じゃないのか。口を閉じた。

関西のホタルは点滅が早い。関東の2倍速で2秒に1回だ。虫も捜査員もせっかちで早口だ。各自が調べたパートをしつこく聞いてくる。分担制らしい。

「殺害に使ったクスリは何錠や?」「麻薬向精神薬取締法の帳簿はどこや」「注射器何ccの規格やってん?」

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