大人はもっと綺麗だと思ってた⑸
「ねぇ先週の課題やったー?」
「え、あれまじ終わらん、やばくね?」
「分かる〜私も終わらないんだけど!」
いつも通りの騒がしい大学キャンパス内。
私はもぬけの殻でただ教室の角に座っていた。
課題…やらなきゃな…。
頭では分かっていても、
手が動かない、頭がずっとボーッとしている。
彼との関係に名前をつけたい。
でも、これで会えなくなるのは嫌だ。
永遠に二つの想いが葛藤している。
もう頭がおかしくなりそうだ。
『いつも通りの時間に来て』
彼からの少し冷たげなLINE。
何を話されるか察しているのだろうか。
『今日〇〇行ってきた!今度一緒に行こ!』
先輩からのひっきりなしに来るLINE。
私と付き合えるもんだと思っているのか、必死にアプローチしてきているのかどっちだろうか。
私はハッキリとした答えが出ないまま、
彼と会う日に来てしまった。
「こんばんは。」
彼の部屋のインターホンを鳴らすと、
少しよそよそしい彼がドアを開けた。
「お疲れ様、お邪魔します」
まるで何ともなかったかのように、
私はニコッと彼に笑いかけて部屋に入った。
「夜ご飯食べやんの?」
「うん、食べてきたから大丈夫だよ」
彼の方言も、最近はすんなりと意味を理解して言葉を返せるようになってきた頃だった。
「シャワー浴びる?」
「うん、浴びようかな、シャツ借りていい?」
「いいよ、洗面所の所に置いてある。」
私は一人でシャワールームへ向かった。
洗面所の鏡の前に、私の置いていった歯ブラシが堂々と置いてあった。
「君はずっとそこにいたのね?」
私は歯ブラシに小さく話しかけた。
他の女の子を連れ込んだりしていない証拠なのだと、自分に言い聞かせるように。
「シャワーありがとう。」
部屋に入った時からずっとぎこちない空気。
普通だったら気まずくて部屋を飛び出たくなるような空気だが、私は彼から離れたくなかった。
しかしシャワーからあがると、彼に笑顔が戻る。
「やっぱり俺のシャツ、ぶかぶかやな」
私のシャツ姿を見るやいなや、
彼は何故か満足気にそう言って私を抱きしめた。
「なに、どしたの」
よかった、笑ってくれた、
怒ってるわけじゃないんだよね。
ほっとしながら私は笑い返した。
「…ごめんね、今日ちょっと疲れてて。」
私を優しく抱きしめながら、
彼がゆっくりとそう言った。
「全然、疲れてるのに会ってくれてありがとう」
私は彼を抱きしめ返した。
「寝よっか」
彼はそのまま私をベッドへ押し倒した。
「これ寝る体勢じゃないよ」
私が笑いながら言うと、彼はニコッとしてから何も言わずに私の口を塞いだ。
彼のいつもより激しいキスに、私は縋り付くように応えた。
脳裏にふと先輩が思い浮かぶ。
「…ねぇ」
「ん?」
「もっとして」
私らしからぬ発言に、彼は少し戸惑った。
が、すぐにニヤついて言う通りにしてくれた。
これでいい。
お願い、ずっと、このまま彼と二人でいたい。
誰にも邪魔されたくない、邪魔させたくない。
彼の体温を感じつつ、
私は先輩との行為を上書きするように彼に求めた。
が、彼は最後まではしてくれなかった。
「触らせてくれないの?」
「触らないでいいよ、俺が触る。」
彼は私の体をひたすら愛撫する以上の事は絶対にしなかった。
なんで?なんでこんな中途半端なの?
君の気持ちが知りたい。
君との関係に名前が欲しい。
そんな事を考えながら、
私の体を硝子のように優しく扱う彼を眺めた。
「可愛いな」
彼は何度も何度もそう言ってくれる。
嬉しかった。けど、欲しがりな私には足りない。
私はモヤモヤした気持ちを残したまま、
私を抱きしめながら寝息を立てだした彼に
「好きだよ」
と呟いて眠りについた。
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