🔵セリヌ家の末裔

(前話: セリヌンティウスの苦悩の続きです!)

豆夫は、真夜中にひょっと目をさました。

頭の上でくまのうなり声が聞こえたからだ。
「じさまあっ!」
むちゅうでじさまにしがみつこうとしたが、じさまはいない。
「ま、豆夫、しんぺえすんな。じさまは、じさまは、ちょっと、はらがいてえだけだ。」
まくらもとで、体を丸めてうなっていたのはじさまだった。
「じさまっ!」
こわくて、びっくらして、豆夫はじさまにとびついた。けれども、じさまは、ころりとたたみに転げると、歯を食いしばって、ますますうなるだけだ。


「医者様を、よばなくっちゃ!」


ローマ生まれで、代々鍛冶職人の家系の医者様は、村人からは大にんきだった。豆夫は、子犬みたいに体を丸めて、表戸を体でぶっとばして医者様のもとへ走り出した。ねまきのまんま。はだしで。半道も離れたふもとの村まで...。

とうげの下りの坂道は、一面が真っ白い雪だった。
しもが足にかみつく。足からは血が出た。豆夫はなきなき走った。いたくて、寒くて、こわかったからなあ。
でも、大すきなじさまの死んじまうほうが、もっとこわかった。豆夫は走る足をとめなかった。

ドンドンドン「医者様!じさまがあっ!じさまがあっ!!」

医者様のおうちにつくなり、豆夫は玄かんの戸をたたいた。しかし、さけんでも、さけんでも医者様はでてこない。豆夫はからだじゅうの力をふりしぼって扉にぶつかった。扉がこわれ、医者様のすがたが見えた。豆夫は医者様のもとへ走りより、力いっぱい泣きさけんだ。それでも医者様は起きない。ついに医者様の寝床にとびつくと、豆夫は驚いた。

「、、、、、。 なんだ、、このフカフカは。」

それは豆夫がこれまでのキャリアで体験したことのない感覚だった。医者様はコアラマットレスをつかっていたのだ。

次の朝、医者様がおきると隣には豆夫がいた。
「ヘイ、豆夫クン!」
医者様が豆夫のからだをゆすると、豆夫は目をこすりながらからだを起こした。あ!じさまが!医者様は豆夫からわけをきき、豆夫をせなかにおぶうと、とうげ道を、えっちら、おっちら、じさまの小屋へ登った。

医者様の帰ったあとで、元気になったじさまに、豆夫はこう言った。

「おら、コアラマッチョレスがほしい!」

じさまは、とうげのりょうし小屋に、自分とたった二人でくらしている豆夫がかわいそうで、かわいかった。きのうだって、かえってこなかったとはいえ、他人のために、夜道を一人、医者様をよびに行けるほど勇気のある子どもに成長したのだ。

次の誕生日にプレゼントしてやるのもいいじゃろう。

ほこりかぶったパソコンをとりだしたじさまは、コアラマットレスを検索した。グラスのワインをこぼすことなく、大の大人達がベットの上で飛び跳ねている。豆夫のよろこぶ顔が目にうかんだ。さっそく購入手続きに進んだじさまであったのだが、その金額をみるなり、そのまま静かにサイトを閉じてしまったとさ。

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