見出し画像

朝鮮人民軍の非戦闘車両:ジープ類


GAZ-67B


金日成が使用したGAZ-67B (KCTV)

第二次世界大戦でソ連が大量生産したソ連版ジープがGAZ-67です。改良型としてGAZ-67Bが登場してからはこれが主力となり、戦後も1953年まで生産されました。

朝鮮戦争時に朝鮮人民軍に供与されたGAZ-67Bは金日成が前線を視察する時の移動手段として利用されたようで、現在は祖国解放戦争勝利記念館に展示中です。既に退役して久しいですが、この他では朝鮮映画 (主に戦争映画) で頻繁に登場しており、閲兵式でも再現部隊と共に登場することがあります。

走行中のGAZ-67B (KCTV)
2015年の閲兵式にて縦隊を率いる様子 (KCTV)

GAZ-69/更生-68


4ドアのエンジン強化型であるGAZ-69AM (KCTV)

前述のGAZ-67の後継が1950年代に開発されたGAZ-69です。GAZ-67と同じエンジンを採用していますが、サイズがやや拡大され、2ドアピックアップトラックのGAZ-69と4ドア乗用車のGAZ-69Aの2種類が存在しました。他の派生型も含めて63万台以上が生産されたといいます。

北朝鮮にも輸出されたGAZ-69ですが、国内でコピーが試みられ、1961年に勝利自動車連合企業所で勝利4.15として完成しました。しかしプロトタイプに過ぎなかったのか、本格的に生産されずに終わりました。

1960年代末にようやく勝利自動車連合企業所 (平城自動車工場でも生産されたと言われるが不明)で生産が開始された北朝鮮版GAZ-69は更生-68と名付けられ、4ドアの更生-68カと2ドアの更生-68ナ (以下それぞれカ型とナ型と表記)、そして小型トラック版*の3種類が生産されました。軍民の両方で使用された更生-68は数の上ではカ型が最も多いと見られ、朝鮮映画でも多数登場しますが、ナ型や小型トラック版は珍しい存在です。現在は恐らく人民軍からは退役したと思われます。

2015年の軍事パレードでの更生-68 (KCTV)
カ型 (KCTV)
民間のナンバープレートを付けたカ型 (KCTV)
更生-68の小型トラック版 (KCTV)

更生-85


丸目でソフトトップの更生-85 (KCTV)

更生-68の後継と思われる更生-85は1980年代に開発された直線的なデザインのSUVです。手動で折り畳むソフトトップが採用されていますが、金属製ルーフのハードトップに変更された更生-85も存在します。ソ連のUAZなどに似た要素もありますが具体的なベースや起源は不明です。詳細がほとんど不明な一台ですが、少数が出回っただけと考えられます。

スピーカーを装備した宣伝カー仕様 (KCTV)
ハードトップの更生-85。ヘッドライトは丸目ではなく角目で、フロントガラスも二分割から一枚ガラスに変更 (KCTV)
平壌の科学技術殿堂に展示された化学偵察車仕様の更生-85の1/2スケールモデル (朝鮮の今日)

UAZ-469シリーズ


1992年の軍事パレードでM-1992装甲車を率いるUAZ (KCTV)

ソ連で開発されたUAZ-469は前述のGAZ-69の後継で、外観上は同じUAZ-3151 (軍用のUAZ-469の近代改修版) とUAZ-31512 (民家用のUAZ-469Bの近代改修版) がありますが、これらの派生型も含めて朝鮮人民軍で使用されているようです。古い軍事パレードではホワイトリボンタイヤ、指揮官用手すり、フォグランプを装備したパレード用UAZが登場しましたが、2010年代にはGクラス等に更新されました。

朝鮮映画でも出番が多い (KCTV)
パレード用に改造されたUAZ (KCTV)
この火の鳥-2 (または火の鳥-3) のように、対戦車ミサイルを車載する場合がある (KCNA)


SFQ2022/SFQ5022


SFQ2022 (KCTV)

中国の瀋陽飛機工業集団の軍用四輪駆動車です。SFQ5022はSFQ2022に酷似していますが、幌の左右の小さなビニール窓がありません。隊長や指揮官クラス用に使用される車と思われます。

SFQ5022 (KCTV)

北京汽車BJシリーズ


BJ2024 (KCTV)

北京汽車がアメリカン・モーターズとの合弁会社で生産したジープ・ラングラーをベースとするSUVがBJ2023です。ただ、それ以外の派生型は民間向けを含めて様々で、戦旗 (Zhanqi) など複数の名称が用いられています。

北朝鮮は2011年、2012年に中国から大量の軍用車両を輸入したことが報道されており、その中には北京汽車製のBJ2024系が含まれていました。これらの中国製ジープは前述のSFQ2022/5022と同様に連隊長や旅団長用の移動手段と考えられますが、実際は中国製は故障が多く性能や技術面でも劣っているという声があるようです。

メルセデス・ベンツ Gクラス


2010年の軍事パレードで初登場したGクラス (KCTV)

ソ連または中国製の車両が多い中異彩を放つのがメルセデス・ベンツのオフロードモデルとして有名なGクラスです。初代のW460型が北朝鮮にて多用されており、2010年の軍事パレードの初登場後は2010年代を通じて頻繁に目撃されました。2008年公開の「저 하늘의 연」という映画で僅かに登場していたこともあり、少なくとも2000年代には輸入されていたのかもしれません。

Gクラスは通常の4ドアと2ドアのカブリオレが確認され、後者は軍事パレードで使用されます。当初の塗装はグリーンでフロントグリルはマットブラック、フロントバンパーはホワイトでしたが、後にバンパーもマットブラックへ変更されました。2018年になると迷彩柄に一新されたものの、2021年には迷彩柄からよりOD色寄りの濃いグリーンに再度変更されました。

2011年の金正日の葬儀でリンカーンのリムジンと並走するGクラス (KCNA)
「저 하늘의 연」のGクラス。imcdbではシュタイア・プフのGクラスとしている (KCTV)
フロントグリルまで迷彩柄になったGクラス (KCNA)
現在は再びOD色に (KCTV)
4ドアワゴンタイプは連絡や指揮官クラスの移動手段向けと思われる (KCTV)

戦勝-60


2021年9月9日の民間及び安全武力のパレードに登場した戦勝-60 (KCNA)
拡大画像 (KCNA)

最後に紹介するのは、特殊な経緯を持つ戦勝 (チョンスン) -60です。これは平和自動車がかつて生産したポックギ2008 (北京汽車のBJ2024系ジープを平和自動車で組立生産したと思われる) の軍用版で、名称は朝鮮戦争の勝利から60周年を記念したものです。よって60周年にあたる2013年には存在したと考えられますが、実際に姿を現したのは2015年8月15日の軍事パレードでした。

戦勝-60はポックギ2008をベースに、

・ソフトトップ化 (パレードでは完全に撤去)
・フロントグリルガード標準装備 (同型を装備したポックギ2008も存在)
・小型フォグランプ装備
・サイドステップ装備
・車内中央に立ち乗りするための指揮官用手すり装備
・전승 (戦勝) と書かれたマッドガード装備

という具合に改造がされています。中国車を自国ブランドとして生産した車両を更に軍用に改造するのは異例です。塗装は単一のOD色ですが、2017年と2018年には迷彩柄も確認されています。

ポックギ2008 (平和自動車)
2018年2月8日の軍事パレードでの戦勝-60 (KCTV)
専用のマッドガード、サイドステップ、手すりがよくわかる一枚。2017年4月の朝鮮人民軍軍種合同打撃示威にて (KCTV)


*この小型トラック版はキャビン部分と荷台部分が完全に分離された北朝鮮独自のモデルであり、正式名称は不明。ただし各型が「カナダラ」順に命名されているため、恐らく更生-68ダになると思われる。

参考文献

・北朝鮮軍のA to Z 亡命将校が明かす朝鮮人民軍のすべて (著 李ジョンヨン/訳 宮田敦司) 光人社


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?