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指切り【小説】

いつも一人、皆が帰った後も独りぼっち。寂しい公園に赤いスカートをひらひらさせながら女の子はブランコに乗っていた。コンビニからの帰り道ある公園で花音ちゃんと俺は友達になった。夕方だけのお友達。
「アイス食べる?」
「いちごのアイスなら食べる」
「そう言うと思って、買ってきたよ」 
前にアイスをあげようとしたら、花音ちゃんはいちご味のアイスじゃないと食べないときっぱり断られた。10歳以上も歳の離れた女の子に僕は振られたのである。こんな暑い日はアイスに限る、夕方でも夏の暑さは全く変わらない。いちごアイスをもくもくと口に運んでいるけど小さな口は夏の暑さに溶けたアイスを地面に滴らせている。
「あ!」
花音ちゃんは大きな瞳をぱちくりさせながら今までかじっていたアイスの棒を見つめている。
「あたり」
「マジ?あたり?」
「うん」
「いいな~俺なんて一度もあたり引いたことなんだけど」
「いい子にしてたら、神様がご褒美くれるっていったの」
花音ちゃんはまだ小学生低学年くらいの子なのに、話す言葉は大人びていて喜怒哀楽もあまり表に出さないような、なんというかとってもミステリアスな少女だった。
妹弟がいるのかな?一人っ子なのかな?色々聞いても花音ちゃんは教えてくれない。
「花音ちゃん、コンビニ行く?あたりでもう一本いちごアイスもらえるよ」
あたり棒なんて滅多に拝んだことも無い。俺はクジ運どころか全ての運を持っていなかった。きっと神様のいたずらだ・・いい子にしてない罰か。
花音ちゃんの恩恵を少し受けようと思った、いつも公園にいる花音ちゃんを連れ出してあげたくて何気なく誘った。
「だめ!公園から出たらだめなの」
驚くほど大きな声で花音ちゃんは、はっきり言い放った。もしかして公園からでると家の人に怒られるのだろうか、なにか約束でもしているんだろうか?
「そっか・・・ごめんね。明日いちごアイス2つ持ってきてあげるよ」
「本当?」
「うん。約束」
いちごアイスが2つというキーワード1つで、花音ちゃんが少し笑った気がした。きっとまだやっぱり子供なんだ。
「お兄ちゃん、約束だよ」
さっと小指を突き出す花音ちゃん。きっとあの“おまじない”だ。
「うん。分かった約束!」
「指切りげんまん!嘘ついたら針千本のーます、指切ったっ!」
花音ちゃんの小さな指は驚くほど冷たい。

空が暗くなってきた頃、俺は夜のバイトがあるからいつもここで花音ちゃんとバイバイする。花音ちゃんは今日は少しだけ寂しそうに手を振った。
夜もあそこで誰かを待っているのか?ひとりでブランコに乗って。花音ちゃんと別れて俺はバイト先へ歩き出した。途中女の人とすれ違った、俯き加減で歩く姿はどこか暗い。顔ははっきり見えなかったけど、薄暗いからかその人の服が上から下まで真っ黒で闇に溶けこんでいるように見えたからかもしれない。

翌日いつもの時間に約束のいちごアイスを2つ持って花音ちゃんのいる公園に向かった。
いつものブランコに花音ちゃんはいなかった。乗り手を失ったブランコだけが悲しそうに揺れている。神様からのご褒美、花音ちゃんはいったい何のご褒美を貰ったんだろう。まだ暑い夏の夕暮れはレジ袋に入ったアイスを、もう半分ほど溶かしてしまいそうだった。           
                                                                        古城零音

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