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演出とストーリー展開にはまった!重厚感たっぷり「首切り王子と愚かな女」

島田薫です。


4日にPARCO劇場で東京公演を終えた舞台「首切り王子と愚かな女」を取材&プライベートの両方で観てきました。

タイトル、そして、ポスターにもなっているおとぎの国を思わせるようなファンタジーな世界観から、少し軽いタッチのお芝居なのかと思っていましたが…実際は人間の本質がさらけ出される、重量感たっぷりの演目でした。


物語の舞台は、時代も場所も架空の王国。
王を亡くした女王(若村麻由美)が国を統治していましたが、第一王子・ナルが病に倒れたことで、女王は城に閉じこもるようになります。そこで、「呪われた子」として王宮から遠ざけられていた第二王子・トル(井上芳雄)が呼び戻され、王家に叛意(はんい)を抱いた疑いのある人々を斬首する役目を任されます。
一方、谷に住む娘・ヴィリ(伊藤沙莉)は、生きる気力を失い、命を絶とうとたどり着いた最果ての崖で斬首するトルと出会いますが、死を恐れないヴィリに興味を持ったトルは、自分に仕えるよう命令します。
召使として王宮に入ったヴィリが目にしたのは、野心、愛憎、陰謀が渦巻く世界。トルとヴィリをめぐるダークファンタジーが繰り広げられます。


私は初日前のゲネプロ(最終舞台稽古)と会見を取材し、プライベートでも観劇しましたが、想定外な展開の繰り返しで王国の世界に引き込まれ、自分自身の内面もえぐられ、とにかく完全に深みにはまりました。

というのも、この作品はただのファンタジーではありません。人間のきれいなところも汚いところも、交互に押し寄せてきます。親子に姉妹、友人関係、愛情、ありとあらゆる感情が交差し、まるで現実世界にあるすべての悩みが凝縮されているようです。


セットも斬新です。まず、劇場に入って目にしたステージは、「このセットは未完成?」と思うほど、簡素なものでした。私は普段から華やかなものが好みで、セットも衣装もきらびやかさは大歓迎。それが、今作は“木組み”が無造作に置いてあるだけで、袖には資材置き場のようなものまで見えています。さらに、正面と左右には、机と椅子が並べられ、間には透明のパネルも。

実はこれ、稽古場をイメージしたセットなんだとか。作・演出の蓬莱竜太さんによると、演劇の想像力の豊かさを引き出すには稽古場を再現することが一番だと考えた結果だそうです。

とはいえ、果たして観客はこの“木組み”でファンタジーの世界に入れるのでしょうか?それが、不思議なことに入れたのです!
出演者が場面ごとに“木組み”をスピード感を持って動かしているうちに、私たち観客の頭の中では、その“木組み”が処刑台になったり、王宮になったり、寝室になったりと、どんどん姿を変えていきます。

撮影:加藤幸広 011A9987

※撮影:加藤幸広


一方、舞台を囲むように置かれた机と椅子は、出演者の楽屋になります。実際の稽古場でも同じように座り、同じようにコロナ感染防止用のビニールカーテンやパネルが置かれていましたが、出演者は本番でも出番のない時に“舞台上の楽屋”にいるのです。トイレに行きたい時には席を立ったり、水を飲んだり、仲間の芝居を見たり。とにかく、稽古場と同じように過ごします。

そんな素に戻った状態の役者が同じ舞台上にいて、観客は芝居に集中できるだろうかとこれまた疑問でしたが、どういうわけか、全く邪魔にならない。出演者が舞台上にいるのを認識しつつ、物語にしっかり集中できるのです。


とても変わった試みですが、俳優のオンとオフを見せることによって、「演劇はこう作られているのだ」というところを見せるのが狙いとのことです。


演出の話が長くなりましたが、出演者の演技も魅力的でパワフル。

簡素なセットを、伊藤沙莉さんが走り回ります。“ずっと走っている人”と言ってもいいほど、小さな体から生きるエネルギーがあふれ出ていました。

井上芳雄さんは「久しぶりの王子役が首切りです」と苦笑いでしたが、「癇癪(かんしゃく)持ちで自分勝手、傍若無人」なキャラクター設定ということで、井上さんの持つ毒舌を活かしたブラックな雰囲気を想像していたら、見事に裏切られました。物語が進むにつれて切なくなり、王子の運命、孤独感に体が硬くなっていくのを感じました。
要所要所に流れる井上さんの歌も、透明感にあふれ、本当に美しい。歌と言っても鼻歌のように口ずさむだけなのですが、それがまた切なさを倍増させ、心を揺さぶります。

2人のほかにも、氷雪の国の女王にぴったりの若村麻由美さんをはじめ、凛々しい騎士役が似合っていた太田緑ロランスさん、2.5次元作品でも活躍した和田琢磨さんら出演者と、美術や音楽など裏で支えるスタッフがそれぞれ役割を果たして1つの作品ができる過程を見た気持ちになり、物語に深く入ることができました。

まさに「演劇はこう作られているのだ」を実感。「これが演出の蓬莱さんの狙いだったのか!」と、複数回観劇した今、じわじわと、より深く味わうことができました。


※東京公演は終了。10~11日に大阪公演、13日に広島公演、16~17日に福岡公演あり。

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