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ミュージカル初心者にもオススメ!「GHOST」、私的“推しシーン”は…

島田薫です。

1999年に公開され、世界中を感動の渦に巻き込んだ大ヒット映画「ゴースト/ニューヨークの幻」。『アンチェインド・メロディ』が頭の中でリフレインされ、デミ・ムーアがろくろを回す姿が今も目に浮かびます。そのミュージカル版「GHOST」が日本で初演されたのは2018年。今月5日からは東京・シアタークリエで再演されています。

あまりにも有名な作品ですが、物語を簡単におさらいすると…。
幸せな日々を送っていた銀行員のサムと芸術家のモリー。ところが、ある日、サムが暴漢に襲われ、この世を去ってしまいます。自分の死を受け入れられず、“ゴースト”になったサムは、悲しみに暮れるモリーをそばで見守る中、新たな真実を知り……という展開です。


エンターテインメント性が強く、上演時間の3時間はあっという間。ミュージカル初心者にもぴったりで、映画を観た人でも、観たけど忘れちゃった人でも、もちろん観ていない人でも間違いなく楽しめます。


キャストも魅力的で、主人公のサムを演じるのは、初演に続き、浦井健治さん。モリーはWキャストで咲妃みゆさんと桜井玲香さん。霊媒師のオダ・メイは森公美子さん、サムの同僚で、サムの死を悲しむモリーを慰めるカールを水田航生さんが演じます。ちなみに、桜井さんと水田さんは再演からのキャストになります。


まず、主演の浦井さんですが、井上芳雄さん、山崎育三郎さんとともに“三大ミュージカルプリンス”と呼ばれ、3人でユニットを組んで活動していたことも。お顔立ちやヘアスタイルからは、とても39歳には見えない“かわいい雰囲気”。一方で何を考えているのか読めない、つかみどころのないキャラクターでもありますが、今作では、そんな浦井さんのギャップを楽しむことができます。

浦井さん演じるサムは物語序盤で死んでゴーストになってしまうので、基本的に周囲からは見えない設定なのですが、ゴーストならではの“受け”の芝居がうまいんです。また、サムの優しさが、浦井さんそのものなのか芝居なのか分からなくなるほど、作品を通して“浦井健治”をダイレクトに感じられる気がします。共演の桜井さんが「みんな自分の感情にウソをつかずに演じている」と話していましたが、浦井さんのサムにはまさにそれを感じました。

そして、冒頭こそ頼りなさのあるサムが、1幕の終わりには、男らしさでグングン魅せてくるのです。私的には、カールの裏切りから沸き起こる怒りの感情とともに力強く歌うサムのこのシーンこそが、今作での浦井さんの一番の見せ場だと思っています。


「ゴースト」といえば、象徴的なのがろくろを回すシーン。ミュージカル版にももちろん出てくるシーンですが、その陶芸に使う粘土はご存じのとおり、手についたら洗い落とすのが大変。周囲に巻き散らかるとやっかいなことになりますね。そこで、「すべるから拭いて~!」と裏で呼びかけるのが、森公美子さんです。この「GHOST」、そしてカンパニーでは、森さんの存在感がすごいんです。

実は私、森さんが大好き。森さんが出演している作品は絶対におもしろいし、キャストに名を連ねているだけで作品に安定感が出ます。なにより、森さんからは「常に周りを楽しませたい」という気持ちとサービス精神を全身から感じます。

そういった森さんの心遣いは、観客、共演者、スタッフだけではなく、我々取材陣に対しても向けられます。取材現場では盛り上がりそうなエピソードを用意しておいてくれるし、「ちょっと話が弾まないかな」と感じる場合には、率先して話をしてくれます。女優としてだけでなく、人間力も高い。とにかく、森さんがいれば間違いないんです。

今作で森さんは、キレのあるダンスを披露。サングラスのグラス部分が抜けるほど、また、大きなイヤリングが吹っ飛んでしまうほどの激しいダンスです。おまけにセットには階段も多いので、“自称・ガラスの膝”を持つ森さんからすると、陶芸の粘土が床についていると危ないんですね。そんなわけで「すべるから拭いて~!」なのです。

そのハッピーオーラとあふれる優しさでカンパニーを温かく支えている森さんが、開幕前の取材会で、発生から10年が経とうとしていた東日本大震災について思いを語り、「コロナ禍でなければ、被災地でこの作品を上演して、観てもらいたかった」と涙ぐむ姿が印象的でした。

また、浦井さんは「伝えたいと思った時には伝えないと後悔する。会いたい人には会いたいと言っておかないと後悔する…と考える内容でもあります」「会いたい人はきっとそばで守ってくれているし、だから人は1人じゃないと信じられる」と今作で伝えたいメッセージを明かしていました。

大切な人との突然の別れを経験するサムやモリーの心情に合わせて語る姿に、改めて「気持ちを伝えること」がいかに大事であるかを教えられ、ハッとしました。日常に埋もれて後回しにしがちな身近で大切な人への思いこそ、ちゃんと伝えておきたいですね。東日本大震災から10年、そしてコロナ禍の今、より強く思います。

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