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アムステルダムで食の生産と消費をつなぐ温室レストラン「De Kas」

突き抜けるような青空の中、子どもたちが笑いながら緑の中を走り抜けていく。アムステルダム中央駅からメトロで15分ほどのところに位置するにも関わらず、驚くほど豊かな自然にあふれるフランケンデールパークの中にそのレストランはあった。

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Restaurant De Kas(写真は筆者撮影)

今回取材に訪れたのは、背の高い煙突のある温室レストラン、Restaurant De Kasだ。忙しい夕食時ではあったが、エグゼクティブシェフのJos Timmer(ヨス・ティマー)さんは暖かく迎え入れてくれた。

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Image via Restaurant De Kas

写真左:Jos Timmerさん、右:Wim de Beerさん。アムステルダム国立美術館のミシュラン一つ星レストラン「RIJKS」でともにシェフを務めたふたりは、2018年からRestaurant De Kasの看板シェフとなり厨房で指揮を執る。

メニューのないレストラン

レストランに一歩足を踏み入れるとすぐに、夕方の美しい光の中フランケンデールパークの自然と綺麗に手入れされた畑が目に飛び込んでくる。高さ8メートルもあるガラス張り温室の中に、センスの良いインテリアが並ぶ。名前De Kasとは、オランダ語で「温室」を意味する。その名の通り、かつてのアムステルダム市が温室として使っていた建物を20年ほど前にレストランとして改修した。現在は温室レストランとして、自分たちで育てた野菜を朝収穫し、その日の内に食卓に並べる。鮮度抜群のオーガニック野菜と確かな腕、ずば抜けた創造力が奏でるオランダのイノベーティブ・フュージョンを楽しみに昼夜美食家たちが集まる。その実力は、ミシュランガイド2020にも掲載されるほどだ。オランダでも今年4度目となるベスト・オーガニック・レストランを受賞した。
「毎朝起きて畑に行き、野菜とじっくり対話をし、その日最もおいしい食べ方を考えます。だから、うちのレストランでお出しするのはコース料理のみ。メニュー表はありません。同じ野菜でも、育ち具合や熟し方によってベストな調理法や食材の組み合わせが変わってくる。その日最高においしいと思うものを、最高においしい食べ方で食べていただきます」
ヨスさんの話す通り、テーブルに置かれたカードには食材の名前だけが並ぶ。

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「野菜の成長を見守りながら、毎週シェフたちとアイディアを出し合い新しい料理を創作しています。本当に恵まれた環境です。私たちシェフにとって、夢のような日々ですよ」

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夕食時厨房で料理をするシェフたち

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季節の野菜をふんだんに使った料理(画像は筆者撮影)

「このようなスタイルで料理を提供するのは、実際に日々野菜が育つのを見ているからこそできることです。去年の夏は例年よりも暑く、雨が多かった。今年の冬も、いつもよりずっと温かいですよね。毎年育てていると、気候の変化がどのように野菜に影響するかだんだんわかってきます。暮らす場所で育てているからこそ、少しの環境の変化が与える影響を感じ取れるようになるのです。これが、育った環境がわからない野菜を使うとどうでしょう。急に届いた知らない野菜を自分のものとして料理するのは非常に難易度が高い。さらに、先にメニューを作って、メニューありきで食材を買い付けると、実際に届けられる野菜の素晴らしさや特性を活かしきれないことにつながります」

生産と消費をつなぐ

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エグゼクティブシェフのJosさん(写真は筆者撮影)

「私たちは、自分たちでは栽培できない肉や魚などの食材も地元の生産者からしか仕入れません。地産地消を徹底することが環境によく、おいしいものを提供するのにも重要だという信念があるからです」

Restaurant De Kasはアムステルダム市内に畑を持っており、その畑とレストラン内の2箇所で使用する野菜の約8割を栽培する。それ以外の食材もすべて地元の生産者から仕入れており、20キロ以上輸送されることはない。フードマイレージ(食の輸送距離)を限りなくゼロに近づけることは、食・環境・コミュニティの持続可能性に大きなプラスの変化をもたらす。まず、輸送にかかるエネルギーが削減できるため環境負荷が少ない。食材の鮮度や栄養価は輸送する間時間とともに失われてしまうが、輸送に時間がかからなければその分失われることなく消費者の口に入る。また、コミュニティにとっては食の安全保障の役割も担う。

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Image via De Kas
アムステルダム市内、ビームスターエリアにある畑

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image via De Kas
日が落ちてからはぐっと大人の雰囲気を増す店内。一部を仕切れるバーや夏のテラス席などもあり、家族や友人との食事だけでなく企業イベントなどにも利用できる。

新型コロナなど有事の際にも強み

De Kasの広報Anna Meyerさんは、現在のレストランの状況を次のように話す。
「新型コロナウイルスの感染防止対策の影響で、物流が分断されてオランダにも一部の食材が入ってこなくなった時期がありました。しかし、私たちは食材を自分たちの敷地で育てているのでそのような影響を受けることはありません。一方で、レストラン(店内)営業禁止措置がとられている間も野菜は育ってしまうので、野菜を無駄にしないよう、人々においしく食べてもらえるよう、日々試行錯誤しています。都市封鎖になった直後には、仕事や収入を失い、食べ物に困った人たちのためにDe Voedselbank(フードバンク)にすべての野菜を提供しました。今月の母の日にはギフトとして母の日ボックスに野菜をつめて販売したところ多くの人に喜んでいただけました。今回のことは、飲食業界に多くの影響を与えましたが、改めて食の生産者、提供者として、私たちレストランはどうあるべきかポジティブに見つめ直す良い機会になったと感じています。」

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Image via De Kas
国の新型コロナウイルス感染防止対策により営業できなくなった4月、オンラインショップで販売したベジタブル・ボックス。利益はすべて寄付された。

食と人をつなぐ

食の生産と消費が切り離された現代、私たちは口にするものの多くがどこから来たのか知らない。ヨスさんは、この温室レストランを通して、食と人をつなげたいと言う。
「人々が食の生産に目を向ける機会を増やしたいと考えています。食は生きるために非常に重要なのに、食べ物がどこでどのように育てられているのか、環境が食べ物にどのような影響を与えているのか、都会に住む人たちが知るきっかけは多くありません。知れば知るほど、食はもっと楽しくなります。De Kasでは、近所の人を農園に招き、食を通じた横のつながりを作るイベントを開催したり、食育のイベントを行ったりもしています。それに、私個人的なことですが、近くパートナーとの間に子どもが生まれる予定です。子どもを畑で遊ばせて、採れたてで味の濃い新鮮な野菜をたくさん食べさせてあげるのが今から楽しみです」

街の中で食の生産と消費を同時に体験することができる温室レストランは、火曜の夜だというのに夜遅くまで多くの人で賑わっていた。「食の安全」について座学で学ぶよりも、野菜が植えられてから料理され、私たちの口に入るまでを感じることの歓びに出会うことが近道なのかもしれない。何よりもDe Kasで働く人たちの生きいきとした表情と食への情熱にはっとさせられた。

Restaurant De Kasウェブサイト:https://restaurantdekas.com/eng/about-de-kas


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