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デザイナーとポエマー 体験設計に必要なビジョンとは

「ポエマー」とはポエムのようなデザインをする人で、デザイナーに対する揶揄を含んだ造語です。(詩人は正しくはpoet)

IoTやAI、ロボティクスのような技術の進歩だけでなく、SDGsや気候変動、自然災害、戦争と言った複雑な事象の中でグローバルな活動を考えなくてはいけなくなっている現代、複雑化する環境の中でデザイナーがポエマーになっていると感じることがあります。そんな状況について書いてみたいと思います。


ポエムの何が問題なのか

マンションポエムを目にしたことがあると思います。新聞や車内広告で良く見る「ステキな暮らしがここにある」みたいな、具体的な情報ではなく情緒に訴えるコピーのことです。

以前の記事でカメラ業界でもポエムが増えてきていることを書きました。昭和時代の一眼レフのカタログではメカの魅力が存分に表現されていたのに、いつのまにか情緒的な商品になっているというものです。

今回テーマにしたいのは、広告宣伝の中のポエムではなく、それらが作られる開発現場で使われるポエムです。

確かに課題が複雑になり、一部や限られた視点からしか考えられなくなっていますが、だからといって課題解決のプロセスがポエム化して良い訳ではありません。現実の問題としてしっかりとしたデザイン活動が必要であることは言うまでもありません。


デザイナーは何をデザインしているのか

デザイナーは戦後の高度成長期の中で「意匠」を作り他社との差別化や見た目を外国の製品のように整えることが役割となっていましたが、機能(数)競争が終わりをむかえ、適切であることや自分のライフスタイルに合っていることが重視されるようになった多様で豊かな時代によって、デザイナーの役割が単に形態や意匠を作ることでは無く、モノやサービスが持つ意味について考えることが求められるようになりました。

デザイン経営のようにデザイナーに製品開発以上のことをさせようとする流れもあり、デザイナーがいわゆる上流工程や経営に関わることが増えてきています。

上流工程では、ユーザーや利用環境を含むシステム全体が提供する価値を考えるためどうしても抽象的になりますが、ビジョンとポエムは違うものとして考えてみます。


体験設計に必要なビジョンとは

機能アップのモデルチェンジではなく、全く新しい製品やサービスを作り出すためには製品設計の前段階として体験設計が必要です。体験設計がなければどのように人に価値を伝え社会実装できないからです。

製品設計には実現したい製品が提供する価値や機能のイメージがあるように、体験設計でも闇雲に体験を作るのではなく何らかのビジョンを置いてそれに実現するための体験設計をおこないます。

ビジョンは一見するとポエムと近い表現になります。それはどちらも「嬉しい世界」を表す言葉だからです。単にふわっとした夢を耳障りの良い言葉で表現したポエムではなく、ビジョンは道筋になる「行動」を表すという違いがあります。

愛や夢、幸せや希望、シンプルや使い易さと言った耳障りの良い誰も否定しない言葉は何もそれを実現するための道筋を示していません。


感性で仕事することを間違っていないか?

デザイナーとアーティストの違いについて以前は明確だったと思いますが、クリエーターという表現が積極的に使われるようになってから両者の違いが曖昧になってきたと感じます。それと同時にデザイナーが現実を観て潜在的な欲求からしっかりとした問いを立てそれを解決する能力から、感性だけで自分が知らなかったことを「私が考えた問い」として素人視点の面白人材になってしまっているのではないかという危惧を持っています。

もちろん、破壊的なイノベーションのためにはそのような乱数的な博打も視点やアイデアを広げる場面では必要なこともありますが、全体としてはしっかりと社会に目を向け人間中心の事実を高度に扱う感性が必要です。

ふわっとした自分中心の感性はポエムにつながり、しっかりと全体を把握する感性はビジョンにつながるという違いがあります。

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言葉遊びのような記事になってしまいましたが、体験設計を事業に役立つデザイン活動にしていくために重要なポイントになると思い書いてみました。







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