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体験設計のためのプロトタイピング<11箇条>

現在のデザイン活動において体験設計をおこなわずユーザーに製品を提供することはリスクの高い開発といえます。メーカーでは製品設計の設計対象が明確なのに対して体験設計が何を設計しているのか分かりにくい状況です。これは「体験」という目に見えないものを対象にしていることが原因だと考えられます。

そこで体験設計の理解の助けになるように「体験設計のためのプロトタイピング」という具体的な活動において「どんなことに着目して」「どんな風にやったらよいか」とういようなことを書き出してみることにしました。

私自身が実行していることやこれまでアドバイスを受けた内容を<11箇条>の形で書き出し、これから更に議論を続け体験設計の理解と共有を深めていきたいと思います。

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体験設計は「モノのデザイン」「コトのデザイン」に対して「イミのデザイン」と言い換えることができます。最終的な目的や結果を人の価値感に置くデザイン活動で、イミをモノやコトのデザインに乗せて体験可能にすることになります。

人の価値観は社会や文化によって多様であり、また個人個人でも生活環境によって変わります。そのため体験設計の必要性は無限に存在し複雑なためプロトタイピングという活動を通してデザインを進めていきます。

現時点で十分な整理ができていませんが、多くのアドバイスや事例をいただいた皆様を代表し、体験設計プロトタイピングの議論を活性化していくために私案として提示します。

※体験設計ではモノやサービスのユーザーだけでなく、提供する側やそれに関わる全ての人や社会が対象になるが、ここでは代表した表現として「ユーザー」を用いる。


人の思考・行動・情動を表現する・評価する

体験設計の対象は第一に人の行動や情動(感情)にあります。それを意図的な体験を通して経験へと結びつけ価値を生み出すというのが体験設計の基本的な構造である。
そのためモノやサービスの設計においても、ジャーニーマップやワークフローの中でユーザーの思考や感情、行動を並列して扱う。機能確認のために試作したものに対してもユーザー目線でそれらを評価することが重要である。

ユーザーに参加してもらう、ユーザーを想定する

体験設計ではユーザーからの要求を明確にしてそれを実現していくことが目標になる。つまりユーザー要求(User requirements)が開発の起点でありデザイン思考のプロセスではユーザーの観察や共感を必要とする。また開発途中、開発完了の体験設計評価においてもユーザー自身による評価をおこなう必要がある。
プロトタイピングにおいてもユーザーによる評価は得るものが多く、開発プロセス全体においてユーザーに参加してもらう持つ仕組みが必要である。
しなしながらユーザーに参加してもらうことが難しい場合も多く、ペルソナを想定することでその代わりとする手法も有効な手段である。

大きなストーリーの関連性、影響、前提を含める

ユーザーの体験は部分によって作られるのではなく前後の関係、周囲との関係などの文脈的な影響が重要である。そのため部分的なプロトタイピングであっても関連性するもの前提とするものを体験設計では考える必要がある。
目の前の機器を評価する場合などでも大きなストーリーの中の操作の位置付けや周囲の出来事との関係を前提として扱うことで、モノの評価がコトの評価・イミの評価にしていくことができる。

モノを作るだけでなく行為を含めた体験を行う

ロールプレイングやアクティングアウトと呼ばれるような身体を使った実際の行為によってユーザーの視点や置かれている状況を理解できる。
体験のためのプロトタイピングでは紙に書いた画面や空き箱を装置の代わりに使うことで人の行為に注目しやすくなる。逆に開発が進み機構設計・機能設計のための試作を用いたプロトタイピングではモノの評価をしてしまうためユーザーの体験を意識的におこなう必要がある。

利用状況・利用環境を作ってみる

VRやMRの活用、布やテープを使った利用空間の作成など利用状況を想定することによって体験設計のプロトタイピングの半分ができあがるほど重要である。
実際に行ける場所であったとしても、自分の手で空間を再構築することで得られる情報は大きく、家具などの小道具は段ボール箱で代用したりして寸法や配置といった環境の理解が深まる。またMy利用環境を作ることで常に利用状況の中でデザインできるようになる。

既存品をHackしてやってみる

体験設計では必ずしも新しいモノやサービスをデザインする必要はなく、新しい使い方や見立てによって新しい体験をデザインすることができる。
そのためプロトタイピングでも既存のモノ/サービスをHackして楽しむことから新しいアイデアが生まれることも多い。

市場に出してからも評価と改善を続ける

体験は最終的にユーザーによって行われるため企業でのプロトタイピングでは分からないことも多い。そのため早く市場に出してフィードバックを得て改善していく方法をとることも有効である。
販売実績だけでなく、事故が起きていないか、効率的に使えているか、使用目的は想定通りかなど、継続的にユーザーからフィードバックを得られる仕組みを持つことによって体験設計や企画意図とのズレを認識し修正し続けることが究極のプロトタイピング活動といえる。
機器をIoT化してクラウドサービと連携させサブスクリプションで費用負担をしてもらソリューション提供モデルは、収益の安定化平準化というだけでなくユーザーからの情報を得やすくサービスを改善し続けることができる。
市場の中で改善を続けていくためにはビジネスモデルや販売方法、契約内容がポイントになる場合もあり、それ自体がプロトタイピング手法の一つといえる。

ビジョンを語って理想が実現するための道筋を作る

現時点のユーザー要求に基づきそれを達成するだけではなく、その先ではどのような状態になっていることが理想なのかを想定することは、ユーザーだけでなく社会や環境といった長期的で広範囲の体験設計には不可欠である。
理想やそこに向かうための道筋としてビジョンを表現することは体験設計にとって重要なプロトタイピングである。
ビジョンは言葉や絵、さまざまな活動を通して表現することができ、共感を得ることで仲間が集まる。

非現実的な世界で考える

アート思考やSFプロトタイピングはいづれも、実用性や現実性と離れてた視点で表現することによって、人の本質的な価値や意味を発見するための手法である。
経験価値に注目する体験設計では、実現方法や実行手段をデザインする前の価値や意味の発見や定義が重要であり、リアルなユーザー観察や調査だけではなくより広い視野に立つプロトタイピングが有効である。
イミのデザインには、問題提起(スペキュラティブ・デザイン)やリフレーミングの視点が先行しており課題解決のプロトタイピングとは切り離して行う場合もある。

全体を薄く作り、それを繰り返す

アジャイル開発を導入しようとして部分の完成に注力してしまい最終的にできたものに一貫性が無かったりちぐはぐになってしまう場合がある。
体験設計のプロトタイピングでは人・モノ・環境といった要素の関係性や役割に着目するため、ラフな関係図から徐々にディテールの関係定義や時間軸にそった変化を構築していく。全体を徐々に精緻化していくイメージである。
部分を作り込むときには全体との関係性を意識しながら進める。部分の構築が全体になるのではなく全体を分解したものが部分になるようにプロトタイピングを進なくてはならない。

デザインガイドライン/テンプレートを作る

複数の製品に共有されるデザインガイドラインやテンプレートを作成するためには、ユーザーの本質的な欲求や様々な利用方法を事前に検討したり既存製品から抽出しなければならない。特に共通する体験を規定することでシステム全体に一貫性を持たせられる。
それらの活動がこれから開発される製品のプロトタイピングとなり、製品開発フェーズで再度検討・検証することでデザインサイクルを2度回すことができる。
ガイドラインは多くの場合一度作られると長期的に使われ、時間が経つとただ守るだけの思考になってしまう。そのため常に未来の製品のためのプロトタイピング活動によって見直す意識を持ち続けることでガイドラインの鮮度を保つことができる。

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