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ベスト100の中の大企業スタートアップ

各企業のデザイン部門では「どうすればベスト100に選ばれるのか」という想いをもっていると思います。そんな中で富士フイルムが今年27点の受賞中4点のベスト100をだしているのはさすがです。(このことはまた別の記事で書きます)

10月8日にベスト100プレゼンテーションがオンラインで中継されました。同時に4会場で進行していたため聞きたいものだけしかアクセスできませんでしたが企業の想いを直接聞くことができ新たな発見もありました。

今回の記事では、Good Designの審査が示したデザインの方向性と、企業が示す変化についてまとめてみます。


何が求められる時代なのか

これまでであれば主力製品を時間とお金をかけてしっかりとデザインしフィニッシュにも気を使っていれば良いという感覚があったかもしれませんが、近年のGood Designベスト100を見ていると必ずしもそうなっていません。

社会やユーザーとの新しい関係を生み出し、それがこれまでの歴史の中で培われていた何かを応用したものであることがペスト100に選出される条件のようになっています。(全く新しいものを創出というのも少数ながらある)

特に、90年代後半から00年代前半にかけて、いわゆる工業製品以外のもの、体験やコミュニケーション(コミュニティ)といった価値に目を向けるようになってきたことが流れとしてあります。

近年では2018年の大賞を受賞した「おてらおやつクラブ」は、デザインの役割がモノを作ることから、人と人や社会の状況AとBを結び付けることで良い変化を起こすことであると宣言したようなインパクトがありました。

「マッチング」または「コネクション/リンク」というキーワードは特に重要になってきています。本来出会わなかったもの同士がデザインの力によって出会い価値を生み出そうという方向です。AIによるマッチングの発見から、デザイナーによる社会文脈からのマッチングまで非常に面白いデザイン分野だと思います。


大手企業によるスタートアップの動き

そんな流れの中で大企業を呼ばれるメーカーでも新しいチャレンジをエントリーすることが目立つようになってきました。

全く新しい分野へのチャレンジや、既存製品を一階層上のレイヤーで捉え直すチャレンジなどです。

大企業病などと言われ既存事業の枠組みやブランドイメージの中で破壊的な変革をおこなうことができず気が付けば面白い取り組みや製品ができなくなってしまうことが良くあります。

デザイン活動にはそれらの保守的な停滞に対して新しい視点や価値観を提示し打開する役割があります。中には従来のブランドの番人となることがデザインの役割だと考えているデザイナーもいますが、Good Designの評価においては前者の役割を高く評価しているように見えます。

2020年のGood Designベスト100に選ばれた製品の中から、そのような状況から抜け出るために、またはそうならないようにするための「スタートアップ的な活動」をいくつかピックアップして紹介します。

いずれも全くの新分野ではなくこれまでの事業に連続していながら、それらの引力を断ち切るようにゼロベースのスタートアップを目指している点に注目してください。


新しい分野で「リベンジ」

カシオは民生デジカメ撤退前、旅行などで記念撮影をする一般的なデジカメ販売だけでなく、特定のスポーツ分野(ゴルフとか)に向けて、デジタル画像を用いたデータソリューションにチャレンジしてきました。

しかし特化していけば行くほどビジネスのパイは小さくなり、カメラ本体が数万円という状況では高価格を付けることもできず最終的に民生デジカメ事業から撤退となりました。(2018年に発表)

その時には既に企画がスタートしていたと思いますが、カシオがこだわり続けていた特定用途に特化したカメラ=コンパクトデジカメ(レンズ固定)を非民生の医療分野で再構築したのがこの製品です。カシオは民生カメラの時代にも新しい使い方に対して思い切った新しいスタイルを生み出してきた実績があり、この製品でも非常に良く考えられて作られていることが分かります。(下の記事参照)

ただ今回も医療機器でありながら、ハードウェアのカメラの価格は76,780 ~ 218,900円だそうです。(安い!)さらに画像ビューアは無償ダウンロードという設定です。

ここから見えてくるのは、より広く普及させそこで集めた同一撮影条件(レンズ+ライティング)のデータから得られる純度の高いビッグデータによってソリューションビジネスへと展開していこうというシナリオです。実際そのようなクラウドサービスも計画に含まれているようですので非常に楽しみです。

私は個人的にこのチャレンジが是非成功して欲しいと思っています。フィルム写真の中にこそ「魂」が込められているという話は聞いたことがありますが、デジタル写真の中にこそ、他の画像とのデータとしての連続性・関係性が保存されており、それを引き出した時に写真(画像)の価値を最大化できると信じているからです。


新しい関係のための「ブランド」

360度カメラと言えば「リコーのTHETA」と思い浮かぶくらいの強いブランドを持っていながら、あえて別会社<ベクノス>を立ち上げブランド名も違う新ジャンルの全天球カメラとして売り出そうとしています。

これまでのマニアックイメージ<ガジェット感>を排して若い女性が日常的に持ち歩けるモノとしての提案するだけであればカメラメーカーの文脈でも十分に可能であったと思いますが、この製品の本質は特殊なデータを日常のコミュニケーションの中で活用していくソフトウェアまたはサービスにあり、それらの提供スピードを考えて別会社を立ち上げたというのが私の感じ方です。

さらに活用をサポートするアルゴリズムの開発において、ユーザーとの「共創」を新しい次元で実現するというのもあるのかもしれません。

リコーは人間中心のデザインをおこなう事務機器メーカーとして実績がある企業ですがユーザビリティの向上という視点から、ユーザー体験(UX)の視点に移っていく中で、今回の様に思い切って新しいブランドが相応しいとなったように思います。


システム全体を知るために「リアル」

これまでGoogleやAppleが自動運転車を開発していたという話は良く耳にしてきましたが、エレクトロニクスメーカーのソニーが実際に走行可能な自動車を開発したというニュースはかなりのインパクトがありました。

たしかトヨタが街を作るというニュースと時期が近かったため「世の中が変わる」と感じたのを覚えています。

これまであった部品メーカーによる使用例ショーカーではなく、モビリティをリアルに体験するために公道走行が可能なモデルとし、それを知っている自動車メーカーと対等に話ができるようになっていこうという想いが感じられます。(自動車メーカーも現在は「モビリティ」という1つ上の概念にデザインを移行しつつあります)

はからずも同じタイミングで日本を代表する大企業であるトヨタとソニーが自社の事業分野の「一階層上の領域」でデザインをおこない実証実験しシステム全体として社会や人との関係性に目を向けていることが評価された理由ではないでしょうか。




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