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Cosmic Designで設計するUX

この世の中にある全てのモノゴトは、単独で存在したり機能しているのではなく、他の製品やサービス、利用環境の中で意味と役割を持ち存在しています。

これが「システムデザイン」の基本的な考え方です。

ではシステムデザインとはどのようなものなのでしょうか。システムの形態は多様でまた見えにくいものですが、理解を進めるためにいくつかの代表的なパターンを示しておきます。


システムに合わせてデザインする

多くの開発では、既に存在している他の製品や利用環境を前提として、そこにフィットした製品をデザインすることになります。周辺のシステムを特定し、そこに適合するように開発をおこなうことも一つのシステムデザインと言えます。

レンズマウント、PCやオーディオの接続ケーブルからネジ穴まで、規格が存在するものはそれに合わせておけば、結果的に既存システムに適合させることができます。

また原発の廃炉で使われるロボットの様に原発内部の環境がどうなっているのか分からないような場合には、調査をして特定しそれに応じたデザインをするプロセスになります。

同じように製品からみればユーザーも利用環境の一つとして考えることができるため、人間中心設計プロセス(HCD)もシステムデザインの考え方を持っていると言えます。

HCDのプロセスの中では、ユーザーと利用環境の明示が最初のプロセスになっており、ユーザー、環境、製品の調和によって目的を達成することがゴールになっています。


システムそのものをデザインする

既にあるシステムに合わせるのではなく、複数の製品の組み合わせ、製品とサービスの組み合わせ、また製品とコミュニティの組み合わせなど、システム全体をデザインし、必要な複数のものを同時に開発することがあります。

カメラの新マウント開発では、レンズ設計とボディ設計の両面から規格が作られ、その後複数の製品が開発されていきます。

AppleのiTunesとiPadはシステムの成功事例の一つです。当初はCDのリッピングを起爆剤としていましたが、その後は音楽ダウンロードサービスを立ち上げ自分たちのシステムを作りあげました。

この成功を見て、カメラメーカーも、カメラと写真管理アプリの連携などに取り組みましたが、現在は多くの写真がスマホで撮影されています。

その理由の一つが「写メール」の登場です。写真を撮るという行為とメールで送るという行為を一つにしました。そして今はSNSへと引き継がれコミュニティという新しい要素をシステムに加えて、写真を撮る意味を大きく拡張しています。


システムがユーザーを繋ぎとめる

魅力的なシステムを生み出すことができれば、そこから複数の製品を出すことができ、エコシステムによってユーザーを繋ぎ留めておくことができます。

単独で利用するハサミであればA社からB社に置き換えても何の問題も起きませんが、カメラのレンズシステムを切り替えることや、コミュニティが拡大したSNSのアカウントは手放すことは難しくなります。

ところが、最近ではこれまでのシステムが次々と新しいシステムに置き換わる動きが加速しているようです。

1つのサービス形態は10年から20年で次の形態へと変化しています。

その中には、サービス会社が置き換わってしまったものもありますし、同じ会社が自ら次世代のシステムに切り替えて生き残っている場合もあります。


システムを上書きする

既存のシステムに接続しない製品や全く新しいシステムは、よほど魅力的なものでなければ受け入れられにくく、通常は既存のシステムとの関係を持ちながら徐々に新しいシステムに切り替えていく手順をふみます。

新しいカメラのレンズマウントではマウントアダプターを介してそれまでのレンズを使うことができるようにしていますし、AppleのiTunesでさえ先ずMacに既存のCDをリッピングするためのアプリとして登場し、その10ヶ月後にiPodを出すことによってコレクションの意識をCDジャケットから一気にiPodのリスト画面に変えることに成功しました。

一度iTunesに取り込まれたものは、他のシステムに移すのが手間となり長期間に渡って使い続けられるようになりますが、最近は既存システムの保有会社が新しいシステムに積極的に置き換える動きが加速しているため、現在ではサブスクリプション型の音楽配信サービスに移行してきています。


製品開発をAtomic DesignからCosmic Designに拡張する

このように製品UXは、実際にはその製品が属するシステムが生み出しています。製品開発においてUXを意識する場合には製品の話だけでは十分ではありません。

製品のメニュー画面を使い易くしたり、エルゴノミックな形状で握りやすくすることも勿論大切ですが、それ以上にシステムとの関係性やその中での役割設定がUXの価値を高めることに繋がります。

体験するユーザー自身もシステムの一部として、利用動機や利用知識などの文脈を持ちシステムに影響を与えており、システムの範囲は想像以上に広く総合的な作用によってUXは生み出されるため、UXをデザインするためには複雑で多層的なシステムをデザインする必要があるのです。

製品を含む大きいシステムをデザインするための体系としてCosmic Designという考え方を提唱しています。これは製品の内部的な構造を示したAtomic Designと対になる体系で、2つを合わせて大きなデザインシステムとして考えることができます。


システムデザインは通常の製品開発でも必要な視点であり、既存のシステムの中で上手くフィットさせながら、同時に次世代のシステムに切り替えていくシナリオ(ロードマップ)を想定するなど、より複雑で大きなシステムデザインが求められています。

次回は、Cosmic Designを実践するためのデザインツールについて考えてみたいと思います。



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