【心に響く】南米名騎手の座右の銘【3選】

JRAのホームぺージには『ルーキーズ』というページがあります。新人騎手のプロフィールやインタビューが掲載されています。

そのインタビューの中で、彼らは座右の銘を答えています。たとえば、田口貫太騎手は「明日の自分は今日より強く」、今村聖奈騎手は「人馬一体」、永野猛蔵騎手は「明るく楽しく」です。


そこで気になりました。外国の騎手たちはどのような座右の銘(モットー)を持っているのでしょうか?

今回は南米の超一流騎手の座右の銘を3つ紹介します。


1人目はアルタイル・ドミンゴス騎手

日本で彼を知っている人はおそらくいないと思いますが、あのジョアン・モレイラ騎手が尊敬する騎手の1人として名前を挙げる実力者です。

ドミンゴス騎手はブラジル人で、ブラジルとアルゼンチンで大活躍しました。残念ながら、2021年の落馬事故で視力(視神経)に問題を抱えてしまい、40歳という若さで現役引退を余儀なくされました。

ドミンゴス騎手は困難な幼少期を過ごしました。彼が生後わずか7ヶ月のとき、父親が亡くなりました。そのため、非常に貧しい家庭で育ちました。

彼は9歳のときからクアドレーラスの騎手をするようになります。クアドレーラスとは、クォーターホースによる短距離の競馬のことで、ブラジルでは普通の競馬よりも人気があります。その活動で家計を助けたそうです。そこから、モレイラ騎手に尊敬されるほどのトップジョッキーにまで上り詰めます。

貧困から這いあがってきたアルタイル・ドミンゴス騎手の座右の銘は、「道に石が落ちてるって?ならば、その石をすべて集めて城を建ててみせよう」です。

これはポルトガルの著名な詩人フェルナンド・ペソア(1888年6月13日 - 1935年11月30日)の言葉です。原文はポルトガル語で "Pedras no caminho? Eu guardo todas. Um dia vou construir um castelo." となります。

「道の石」は人生における壁を意味します。「それらを集めて城を建てる」とは、人生のいかなる困難をも糧にして、大きいことを成し遂げるという意志を表しています。

あるインタビューにおいて「あなたは誰から何を学びましたか?」という問いに対して、ドミンゴス騎手は「日々の生活を経て、この世に簡単な事や簡単な物なんて何もないんだと知った。我々は毎日戦わなければならない」と述べました。フェルナンド・ペソアの言葉は、幼少期の苦難を乗り越えた彼らしい座右の銘です。


2人目は、ドミンゴス騎手と同じブラジル人のジョルジ・ヒカルド騎手

2023年8月4日現在、ヒカルド騎手は通算13,261勝をあげています。もちろん、ぶっちぎりで世界最多勝利記録です。1976年11月16日のデビューから、47年間も勝ち続けています。

世界でもっとも1着でゴール板を駆け抜けた騎手。世界でもっとも勝利の味を知っている騎手。そんなジョルジ・ヒカルド騎手の座右の銘は「勝とう!(Vamos ganhar)」です。英語なら Let's win となります。

世界一勝利をあげた騎手の座右の銘が「勝とう!」というのは、ちょっと深そうな予感がします。というか、「もうすでにめっちゃ勝ってるじゃん!もう充分でしょ!」とツッコミたくなります。

今年6月、ヒカルド騎手はインタビューで「なぜこんなにも長きにわたって競争意欲を保てているのですか?」と訊かれた際、次のように答えました。

「他の人より競馬に対する意欲が少し高く、他の人より騎手という職業に対する愛情が少し多く、高いプロ意識を持ち、身体に気を使っているからだと思う。5歳で競馬という世界を知り、10歳で馬の乗り方を学び、15歳で騎手としてデビューした。それから現在に至るまで、競馬に対して昔とまったく同じ意欲と愛情を持って活動している

勝とう!

シンプルでありながら、実現するのがとても難しいこの座右の銘を、高いプロ意識を持って、半世紀近くも成し遂げている。ジョルジ・ヒカルド騎手は間違いなく競馬界の教師であり、尊敬されるべき人物です。


3人目は、アルゼンチン人のフアン・ノリエガ騎手

ここ50年ほどのアルゼンチン競馬において、アルゼンチン人騎手として飛び抜けた実績を残した人物が2人います。

1人がホルヘ・バルディビエーソ騎手。『競馬界のマラドーナ』と称される騎手で、実際にマラドーナの友人でもありました。

もう1人が、そのバルディビエーソ騎手を尊敬するフアン・ノリエガ騎手です。

ノリエガ騎手は1973年12月26日にアルゼンチンのコルドバ州で生まれました。2023年8月4日時点で、アルゼンチン通算4,418勝をあげています。これは現役の騎手としては最多の勝利数です。そのうちGⅠは83勝もしています。

アルゼンチン競馬史に残る名騎手の座右の銘は「質(クオリティ)は買えない」です。スペイン語では "La calidad no se compra" と言います。

たいていの場合、"La calidad no se compra" の後には、"se hace" や "sino que se va construyendo" と続きます。「質は買えない。作られるものだ」や、「質は買えない。築きあげられていくものだ」という意味になります。

つまり、「お金を払って簡単に得られる成功なんてない。お金を払って簡単に得られる技術なんてない。成功したければ努力して自分を磨け」ということです。

この言葉をモットーに、ノリエガ騎手はアルゼンチン最高品質の騎乗技術を習得しました。現在、アルゼンチンの競馬学校では「フアンを見て、フアンから学び、フアンのように乗りなさい」と教えられるほどです。

2018年に行なわれた南米最大の競走であるGⅠカルロス・ペジェグリーニは、ノリエガ騎手のすべてが詰まった騎乗だと思います。「なんでそれで逃げ切れるの?」という技です。この質は絶対にお金では買えません。


いかがでしたか?

どうでもいいですが、僕の座右の銘は「信じてやれば、できる」です。

サッカーのアトレティコ・マドリードのディエゴ・シメオネ監督が、2014年のリーグ優勝の演説で言った "Si se cree y se trabaja, se puede" というスペイン語が元ネタです。


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木下 昂也(Koya Kinoshita)
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