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日本の生産者はアルゼンチン競馬を破壊しているのか?

 もし競馬をまったく知らない人から「強い馬はどうやって産まれるんですか?」と訊かれたとき、どのように答えるのが正解だろうか。

「強い馬から強い馬が産まれます」

 というのが、もっとも分かりやすい答えになると思う。

 もちろん、競馬を知っている人なら必ずしもそうではないことは分かっているが、基本的には「強い馬から強い馬が産まれる」が競馬のイロハのイであり、その理論に基づいて発展してきた産業である。だからサラブレッド(Thorough + Bred)なのだ。

 強い牡馬だけが種牡馬になれる。強い牝馬が繁殖馬として期待される。強い馬から産まれた仔に高値がつく。ディープインパクトの母ウインドインハーヘアも、アーモンドアイの母フサイチパンドラも、リバティアイランドの母ヤンキーローズも、国籍は違えどみんなGⅠ馬である。

 何度も言うが、必ずしも強い馬から強い馬が産まれるわけではない。GⅠを何勝もした馬が種牡馬として名を残せないことはあるし、競馬ファンはウオッカやダイワスカーレットなどの例を知っている。

 だが、サラブレッド生産は基本的には「強い馬の仔は強い」理論で成り立っている。生産者は世界中から強い馬を買う。強い馬を買うためには資金が必要である。となると、必然的に経済力の強い先進国に強い馬が集まり、先進国の競馬が強くなる。

 したがって、先進国であり、競馬にとても熱心な日本の競馬が強いのは当然のことである。日本の生産者は世界中からGⅠ馬を買い漁っている。

 では、強い馬を買い漁られた側の国の競馬はどうなるか?

 強い馬を作るための強い馬がいなくなってしまう。戦力ダウン・生産力ダウンを余儀なくされ、馬の質が下がってしまう。その結果、サラブレッド生産業が衰退していくことが予想される。

 日本の買い漁りをこれでもかと受けている国がアルゼンチンである。アルゼンチンのGⅠ競走を勝った牝馬は、ほとんどすべて日本の生産者に引き抜かれている。「アルゼンチンの牝馬GⅠを勝つ=日本行きの切符を獲得」と言っても過言ではない。

 今回のテーマは、

  1. 日本はどれだけアルゼンチンGⅠ牝馬を買い漁っているのか?

  2. 日本の爆買いによってアルゼンチン産馬の質は低下したのか?

  3. 日本の生産者は本当にアルゼンチン競馬を破壊しているのか?

 この3点について、様々なデータや数字を使って分析していく。

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