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世界共通

ファミリーとは

しばらく歩いて高松の商店街を抜けた一角にある少し築年数の経った雰囲気のビルにたどり着いた。一階の貸しテナントは「空き」になっていてテナント募集の手書きの看板があった。

通りに面しているところはガラス張りになっていて、外から中で女性が一人でなにか作業しているのが見えた。
「あ、いるいる」と言ってキキさんが扉を開けて入って行ったので、それについていく。

中にいる女性もこちらに気付き、明るいあいさつでこちらに近付いてきた。見たところ同じくらいの年齢だなと思った。

「こちら土山さんです。こちらは筒井ファミリー。」
とキキさんが紹介をしてくれたので、お互いに初めましての挨拶をした。
「土山さんのやりたい事とか興味関心が筒井ファミリーにぴったりだったから」
「あ、そうなんですか?どのようなことをやりたいと?」

そこから簡単にだけ説明をすると、とても話に食いついてきてくれて話は盛り上がった。紹介してくれたキキさんもその姿を見て絶対ぴったりだと思ったよと少し嬉しそうにしている。

「ちなみに、土山さん今日泊まるところ決めてないらしいんだけど」
「あ、じゃあ、うちに泊まりますか?」
という流れで泊めていただくことに。

このビルはこの女性の祖父のものらしく、空き部屋があるのでそこを使ってもいいという事だった。そして、一階の空きテナントでしていた作業は、もうすぐ行う自分の結婚式の式場をDIYで造っているところだった。すごい。

他にもコンポストトイレやソーラー発電をDIYで設置した設備など、このビルの中を色々と紹介してもらった。

このような紹介をしてもらう中でずっと疑問だった「筒井ファミリーとはなんですか?」という質問を投げかけたところ「私もなぜファミリーと呼ばれているのかわかりません。一旦、ファミリーは置いときましょ」と言われた。

ファミリーを付けた呼称はただキキさんが勝手に呼び始めただけらしく特に深い意味はないみたいだった。笑
この日、件の結婚式の打ち合わせがあるという事で、僕はまた夜このビルでゆっくりお話をすることになり、キキさんと街歩きに出た。

街歩き

「土山さんに筒井ファミリー以上にぴったりの所なんてないですよ」と言いながらも、一軒雑貨屋さんに行きましょうかと連れて行ってくれた。

また商店街の方に戻る形でしばらく歩き、途中でキキさんがコンビニに寄りながらおしゃれな雑貨屋さんに到着。
お店の店主さんに筒井ファミリーの時同様にキキさんが紹介をして挨拶をした。

すると店主さんがスッとキキさんに椅子を差し出し、キキさんはその差し出された椅子に腰を掛け、先程コンビニで買った缶ビールをプシュッと開けて飲みだした。

人のお店でお酒飲むの?と思いながらも店主さんも特別気にする様子もなく普通に世間話が始まった。

途中でキキさん「土山さん、ここはおしゃれな雑貨屋さんなので、お客さんが来たら僕たちは出ないといけませんから」と言われ、そうでしょうねと思ったし、そう返事もした。

すると外から女性が入ってきた。僕はお客さんかと思ったが、どうやら顔見知りらしく挨拶をしていた。なんとなく既視感のある人だとは思ったが、全く思い出せず気のせいだろうと一緒に話をしていた。

その女性も同じことを思っていたらしく、会話の流れから僕がココカ古書店で働いていた時お客さんとしてきたことがある方だと判明し、まさか高松で会うとはと2人で盛り上がった。

初めての

そんな驚きの展開もありしばらくすると、もともともう一人お店でお話していた女性と実は会ったことがあると発覚した女性が予定があるなどでお店を出て行った。

キキさんもお店に来る途中で買った缶ビール2本も飲み終わり
「ちょっと空き缶捨てに行きがてらお手洗いに行ってくるので待っていてください」と言って出て行った。

そして、店主さんも僕に言った。
「土山さん、僕もお手洗い行ってくるので店番お願いします」
「わかりました。え!?」
こうして僕は1人初めて来た雑貨屋さんに取り残された。

とはいえ、僕が来てから平日という事もあってか知り合いらしき人しか来ていなかったし、すぐに帰ってくるだろうから大丈夫だろうと踏んでいた。

1人になってすぐに女性2人組のお客さんが入ってきた。
商品を買うかも分からないし、買うとしてもそれまでに帰ってくるだろうとこの時も余裕をかましていたが、都合よくそうはならないのがお決まりのパターン。

商品をレジに持ってきてしまった。
「すいません、今店主さんお手洗いに行ってしまってるので少々お待ちください」
「あぁ、はい」と怪訝な顔で返事をされてそりゃそうだよなと思った。

このまま白を切るのもなんだし、と思い「観光ですか?(お決まりの文句)」などと声をかけた。この2人も中国人留学生らしく、何を勉強しているの?とか、ちょっと前にも中国人の留学生と友達になったよなど話しながら必死に繋いでいた。

全然あの2人帰ってこない……。

帰還

じきに別のお客さんが商品を持ってきてしまったため、同じように事情を説明した。このお客さんは少し急いでいたようでまた来ますと言って店を出ようとしたとき、店主さんがお待たせしましたの言葉と共に店に飛び込んできた。

店主さんがお客さんのレジをさばいている中、いつの間にかキキさんも店内に戻っており、お買い物をして頂いたお客さんに対して深々とお辞儀をして「ありがとうございました」と言っている。

レジをし終えると店主さんが僕に言った。

「いやー、土山さんすごいっすね!めちゃくちゃ接客してましたやん!」
「戻ってくるまでの繋がなきゃと思って。てか、どこにいたんですか?」
「外から見てました!それにしてもお客さん腹抱えて笑ってましたやん!何話してたんですか?」
「何を話したもなにもね、初めて来たお店の初めて会う店主さんにお手洗いの間店番してくれって言われて一人取り残された状況を話したら爆笑してたんですよ!」

こんな具合に店主さんと話していると、それを聞いたキキさんがしみじみと言った。

「へー、その類の笑いは世界共通なんですねぇ」

そ、そういう問題か……!?

ここから少しだけ話してからお礼とお別れの挨拶をして、一筋縄ではいかない高松の夜を吸い込んだ。

つづく

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