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緑茶ハイ20杯から吐かれるラブコール



その人はいつもベロベロだった。
緑茶ハイを20杯飲んでからやってきた。

よく行くバーで仲良くなったスーツに黒縁眼鏡のタッパのある男性はクシャッと笑う優しそうな人だった。


会ったそのときから開口一番

「可愛い。ねえ可愛いんだけど」

と連呼された。
言われ慣れてない言葉に思わず面食らった。
酔っ払いだし暗がりだし、補正かかってるのかな?なんて警戒しながら恐る恐る会話をした。

「俺さ、髪の毛フェチなんだよね。派手髪フェチ。だから君の髪の毛見た瞬間からやば!って思って」

と、ニコニコ嬉しそうに告げてきた。
高校生の頃から傷めに傷めつけてきた私の髪の毛。毎回色が変わる派手髪。初めてこんなに認められた気がして嬉しくて嬉しくて。思わずにやけた。


どうやら世の中には派手髪フェチというものが一定数存在するらしい。この数年で派手髪が好きでと褒められることが何度かあった。

私の場合はポイントカラー、インナーカラーではなくオールカラーだ。何処にいてもよく目立つ。


緑茶ハイ20杯のせいで呂律もあまり回ってない中、細い目を更に細くしながらニコニコとこっちを見続けては

「んーかわいいなぁ」

と彼は言い続ける。
褒められることに耐性のない私はどんな顔をしたらいいのか分からず暗がりでただ狼狽えるだけだった。


そんな彼に甘えるように

「ちゅーしていい?」

と聞かれた。
キスが好きな私は二つ返事で答えた。

男性にしては柔らかい唇。彼の口内からほんのりアルコールが押し寄せる。思わず酔いそうにもなるがそれでも離すことはやめない。ひたすらに唇は絡み続ける。考えることを忘れた。

息が続かなくなってやっと唇を離す。
彼は満足そうにしていた。キスは好きだけれどこんなにキスが気持ちいいと感じたのは初めてだった。こんなにもキスで満たされることがあるなんて。

知らない世界が広がっていた。無駄がなくただただ気持ちよかった。これを相性がいいというのだろう。



混んできたお店の隅っこで、くっついてヒソヒソ話をした。
何を話したかなんて覚えてない。ただ適当に世間話。それがバーではただ楽しいのである。

そしてまた求められ暗がりで口付けをする。何度も何度も。
「可愛い、可愛い」と言われながら。
人は自己肯定感を認められるとこんなにも幸せになれるんだと知った。

180センチ近くある彼にキスするのは、なかなか苦労した。首を精一杯もたげても、届かない。
そんな私をニコニコ見ながら彼は屈んで私にキスをした。

私ばっかり負けてる気がして悔しくて思わず彼の首筋にキスをした。
そして思い切り彼の匂いを嗅いだ。スーツからはその日の汗と柔軟剤の香りがする。男性特有の香りだ。それを嗅ぐのが匂いフェチの私には至高なのだ。
嗅がれる側は「臭いからやめな」と言うけれど、そんなに臭くはない、少なからず好意がある人の匂いは嫌な匂いではない。


キス以上はしない。なんとなく。
それで二人は満たされていた。
本当は少ししたい気持ちもあった。思わず濡れていた。
けれどキスだけでも耐えられるくらいには気持ちがよく、自己肯定感は満たされた。





いつのまにか彼を見なくなった。


変わらず私は派手髪です。

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