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短編小説『俺のモラル』

「行ったらあかんで」
「え」
「信号赤やから行ったらあかん」
「いやでも車なんか通りませんやん」
「そんなん関係ない。赤信号は止まれや」
 なんやねん、このおばはん。融通のきかんやつやで。風紀委員でもやっとったんかな。こういうやつ、不特定多数おるよな。どういう正義感やねん。
「別におばはん関係ないやんけ」
「あります。そうやってちょっとしたルールを破ることを赦してしまうから世の中から犯罪がなくならないんです」
「大袈裟やろ。誰もなんにも通ってないんやで。おばはんも正直渡ってしまおかなって思うやろ」
「思いません」
「うそや。そんなん絶対。こんな誰も通らへんのにあたし何ぼーっと突っ立ってるんやろ、って思うやろ」
「思いません」
 頭の固いおばはんやの。なんやねん結局わしも青になるまで待ってしもたやないか。



「おい、おっさん、ええ年してみっともないことすな」
 ブックオフで「幽☆遊☆白書」を立ち読みしているおっさんがいたので注意してやった。
「なんやねん、別にええやんけ」
「ようないわい。さっきから見てたらおまえ、一巻から順番に本腰入れて読んどるやないか。恥ずかしないんかえ」
「なんやねん、別にわいが何やろうがおっさんに関係あらへんやないけ」
「あるわ。しょーもないおっさんみたいなおっさんのせいでわしら同じや思われるんじゃあほ」
「そんなこと知るかい。別に迷惑かけてへんやんけ」
「あほか、図体のでかいおっさんが占拠しとったら邪魔やんけ、迷惑千万じゃ」
「鬱陶しいおっさんやの。おっさんかて立ち読みくらいするやろ」
「ええ年してそんなことするかい。酒と一緒に二十歳でやめたわ」
 ほんまに何やねん。やってええこととあかんことくらいわからんのか。腹の立つ。
 俺はハイライトに火を点けて三条大橋を渡っていると、同い年くらいのおばはんに声を掛けられた。
「歩きタバコ、あきませんよ」

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