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その業界の話

 みんなが当たり前にできることを私も当たり前にできるかといえばそんなことはないのだが、みんなが当たり前にできるがゆえに当たり前にできることを求められ、できなければ「そんなこともできないのか」と怒られるのは理不尽であると声をあげてもいい雰囲気になってきた令和です。

 私はケーブルを数字の8の字に巻いて片付ける「8の字巻き」ができなくて「そんなこともできないのか」と執拗に怒られたことをいまだに根にもっており、世の中からあなたの望むただ一人だけを抹殺することができるとしたら誰を選びますかという質問があれば秒でそいつの名前を答えるくらいいまだに嫌いです。

 私はその人にわからないから教えてくださいと言ってみたところ、結局教えてくれなかった。なぜかといえば私が左利きだからで、その人は右利きには簡単に教えられるが左利き相手にはうまく説明できなかったのである。自らが「教える」という業務を遂行できなかったことについて、「こんなことはこの業界にやってくるのであれば事前にできているべきである」というおかした理屈を持ち出して結局私には8の字巻きを教えてくれなかった。

 私は普段から「その業界」にいるわけではなく、たまたま「その業界」にお手つだいをしにいった身であったから「その業界」のルールなんて知ったことではない。この経験があったからこそ、私は以後、仕事について知識のない人に優しくできるようになったから、悪いことばかりではなかったんだと思うが、二度とその人には会いたくないし、これを書いている間にも怒りが込み上げ、じんましんが出てくるくらいにその人のことが嫌いである。

 私の場合、「その業界」になんの未練もないし、もともと全くそこで働くつもりもなかったからよかったが、夢と希望に胸を膨らませ、その業界に足を踏み入れた人間が「こんなこともわからないのか」と理不尽に貶され、夢も希望も八つ裂きにされた挙句、「最近の若い奴はちょっと指導したら不貞腐れてやめていく根性のない奴らばかりだ」と、あたかも辞めたほうが悪いかのように始末されてしまうのである。そういう悪しき風習が少しでも消え去ってくれているなら、令和の世も悪くない。

#日記 #コラム #エッセイ
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