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1人目の客になれた話 京福西院駅隣編

 趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。
 先日、村上春樹が「その日の1人目の客としてバーで酒を呑む」ことが好きだという話を聞きました。あの村上春樹が私と同じようなことを好んでしていると知り、親近感が湧き、以来勝手に春樹と呼んでいます。新店の1人目の客になるのが趣味なのですが、これからは「その日の1人目の客」になることも趣味にしていきます。

というわけで昨晩は近所の居酒屋「こころ西院」
1人目の客になりました❤️



 さて。
 大型連休の空気を帯びた京都市内、久しぶりに自転車で烏丸四条の職場へ行くと、職場仲間が新店情報を教えてくれました。
 今日、西院(さい)駅の隣に鰻屋がオープンしますよ、と。
 「さい駅」は京福電鉄の「西院駅」で、阪急の「西院駅」は「さいいん駅」です。本来「西院」は「さい」と読むのが正しかったのですが、阪急が「さいいん」と読ませてしまったことで一気に「さいいん」という読み方が広がり、やがて定着していったという話を聞いたことがあります。真実かどうかはわかりません。「西院(さい)駅」と彼は言ったので、京福西院駅の隣、我が家から歩いて十分ほどの近所です。こんなことならこの店の1人目の客になってから職場へ行けばよかったではないか。しかし、職場へ行かなければこの開店情報は得られませんでした。何か、ことわざにありそうな状態。

 その新店情報を聞いたのが午前9時40分頃、調べてみるとオープンは11時!急いで家に帰らなければなりませんが、もちろん私は仕事をしに職場へ来ておりますゆえ、仕事を放っておくこともできません。ところがそんな時に限って急激な腹痛に見舞われ、トイレに籠っていると刻一刻時は過ぎゆき、トイレから出た頃にはもう10時を過ぎていました。仕事はあきらめるしかない。仕事は後回しにできますが、新店オープンは待ってくれない。自転車で通勤したのは今日の私のファインプレーかもしれない。カープの菊池や西武の源田ですら、こんなファインプレーは年に一度あるかないかです。
 ほぼ職場をタッチするだけでとんぼ帰り。信号待ちの時間が惜しいから赤信号になるたびに四条通りを右折して北上する。西洞院四条を右折し、錦小路を西へ、堀川通りにぶちあたり、赤信号のため、北上、蛸薬師、六角を超え、三条も赤信号ですが、これ以上北上すると遠回りになってしまうので堀川三条で信号待ち。堀川通りは車が流れる大河なのだ。
 三条会商店街は自転車を飛ばしにくいので一本北の幾分細い姉小路通りを西へ突き進み、千本通りを少し南下、斜めの後院通りのせいで信号待ちがややこしい交差点はラッキーなことに青だったので颯爽と通過する。清涼飲料水のCMに起用されてもいいくらいの颯爽であったはず。

 無事帰宅し、1人目の客Tシャツを着て西院(さい)駅へ向かう。家を出たのが10時16分。安全圏の開店40分前には間に合わない。御前通りを早歩き、少しダッシュ、早歩き、少しダッシュを繰り返す。
 御前四条の信号はつかまると長い。少し手前で青になったから本気のダッシュに切り替える。高校三年最後の夏、2アウトランナー無し、あと1アウトでコールド負けを喫するという場面に私は代打としてバッターボックスに立った。よくある思い出代打。初球を打ち返した私の打球は一塁手前に転がり、あえなく最後のバッターとなった、あの日以来の猛ダッシュ。あの日はアウトでしたが今日はセーフ、信号を渡り西へ早歩きする。開店を祝う胡蝶蘭が並んでいる。誰も並んではいませんが、車道沿いにバイクに跨るおじさんがいて、開店待ちしているように見えなくもない。おじさんのことは見えていない体で私は店頭に立つ。これでおじさんが何か言ってきたらジ・エンド。

 おじさんは何も言わず車道へ消えていきました。

 それにしても最近鰻屋めちゃくちゃオープンしてませんかね。あんまり鰻屋ばかりオープンされたら財布がいくらあっても足りません。
 オープン15分前にご婦人二人組が私の後ろに並びました。なんでもない休日のランチに鰻を食える裕福な暮らしを送っていらっしゃるんですね。
 11時オープン。
 旅館の番頭さんが着てそうな半纏を身につけた店員さんが「いらっしゃいませ。1人目のお客様、どうぞ」とおっしゃる。その声を、その言葉を聞くのを無上の喜びとしています。

令和6年5月4日午前11時、京福西院駅隣にオープンした「鰻の成瀬」西院店の1人目の客は私です。

鰻大好きやねん❤️

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