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1人目の客になれた話 東洞院四条編

 涌井慎です。趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。近頃は冬将軍なんていう言い方も不謹慎な気がする世界情勢で先日、ホフディランの「遠距離恋愛は続く」を聴いたら隔世の感がありました。そういえば私の子供の頃はその名も「戦争」というトランプゲームがありました。漫画やテレビにも戦争を笑いのネタにしたものは多かったような気がする。

 冬将軍でなければなんでもいいんですが、冬大名か冬総理大臣か。国民に対する冷たさでいえば冬総理大臣がふさわしいかもしれない。前置きが長くなりましたが、いよいよ朝が寒い。私の地元では手がかじかんで動かなくなることを「手が死ぬ」と言ったりしましたが、まさに私、今、瀕死の手でこの文章を打ち込んでおります。こういう表現もあまりよくない気がしてきました。

 ただいま12月16日の午前6時30分です。早起きはあまり得意ではないのですが、趣味のために今朝は5時台に跳ね起き、ここ東洞院四条下ルまでやってきました。冬横綱や冬チャンピオンが攻めてくる道中を私は半べそかきながら移動しました。目当てのコンビニはまだ準備中で入口には目隠しなのか何なのか、透明のビニールが張ってあります。中がぼんやり見えるのがなんだか卑猥です。

 さきほど男性スタッフがやってきて、半笑いで「7時オープンですので・・」と伝えてきたので「待っててもいいですか」と告げると「はいー」と返事をしながら半ば「僕はあなたを変な人だと思っていますよ」と意思表示しているかのように半笑いを保ったまま奥へ消えていきました。「実はオープンしたお店の1人目の客になるのを趣味にしておりまして・・」と言って自家製1人目のTシャツを見せびらかす間がありませんでした。見せたところでスルーされるような気もしました。あの手のスルーは精神に堪える。昔ながらの友人や後輩にSNSをブロックされたりフォローをはずされたりしているのに気づいたときくらい堪える。それに比べれば今朝の冬近平も冬正恩もたいしたことはない。

 店頭に並んだときはまだ暗い夜だったのが、6時40分を過ぎると明るくなってきました。遠くでカラスが鳴いています。名前のわからない鳥の鳴き声もします。そういえばミニー・リパートンのLovin'Youの頭で鳴いてるのは何という鳥なんでしょうか。

 しまった。コンビニのオープンの1人目の客になろうかというのに、財布の中に1万円札しか入っていない。さっきのスタッフの半笑いが苦笑いになるのが見えた。近頃は支払いは機械で済ませられるし、おそらくこのセブンイレブンもそのシステムを採用しているとは思いますが、オープン30分前から並んで開店を待ち侘びている客が小銭や千円札を用意していないのは不用意すぎて、インターネットのご意見番の皆さんに糾弾されるかもしれない。

 隣のマンションからおじさんが出てきて私の後ろに並んだのがオープン10分前。このおじさんも怪訝な表情で私を見たのを私は見逃しませんでした。人は自分の想像の範囲の外にあるものを見た時にああいう表情になるのです。私がはじめてルーブル美術館でモナリザを見たときもおそらくあれと同じ顔をしていたと思う。

 オープン直前、後ろのおじさんにスタッフとみられる男性が「今日は朝早くからありがとうございます〜」と声を掛けました。関係者でした。7時5分前に扉が開く。まだ自動になっておらずスタッフの方がこじ開けました。
「お待たせいたしました!」
 一歩めを制しました。この快感のためにこの趣味があるのだ。店内をめぐる。コーヒー、パン、おにぎり、めぐっていると、後ろにいたおじさんがおにぎりを二つ手にしてレジへ向かいました。しまった!先に精算されてしまう!私は心の中で叫びました。振り返れば「なぜそこに桜木がいる!!」と叫んだ田岡監督のようだったと思う。しかし、しかし!一歩めを制したのはまぎれもなく私なのだ。

 令和4年12月16日、午前7時5分前にオープンしたセブンイレブン京都東洞院四条店の1人目の客は私です。

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