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1人目の客になりたくて

 趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。この趣味について記録した書籍『1人目の客』を出版し、京都新聞に掲載していただいたことで、ありがたいことに取材というのか何というのか、どうしてそんなことを始めたんですか?ということを聞かれる機会が増えました。

 ラジオ局で番組制作の仕事をしております。あれは十年ほど前のことでしょうか。京都の「ハマムラ」という有名な中華料理店が本日移転オープンする、という新聞記事を見かけました。金曜日のことです。
 当時、私はお昼のワイド番組のAD(アシスタントディレクター)をしておりました。11時から15時の番組の開始早々、11時15分頃からのトークパートは当日の朝刊からネタを拾い、オンエアで紹介するのが常で、この日はハマムラ移転オープンのニュースを取り上げる方向で進んでいたのですが、そんなに遠い場所にあるわけでもなし、自転車でチャッといけるところなんだから、開店初日の雰囲気がどんなもんか見に行って、直にチェックした感想も盛り込んだらよりオリジナルな情報を届けることができるんとちがうかえ?というわけで、私が自転車を飛ばしてオープン前のハマムラへ行ってみたところ、超人気店の移転オープンですから、かなり行列ができとるんやろと思いきや、開店数十分前に到着したところ、誰も並んでおらず、はからずも1人目の客として入店することができたわけです。

 これがなんともいえず快感で、これから京都で悠久の歴史を紡ぐであろう名門中華料理店が私の入店によって再スタートしたのだという、感慨が後から後から押し寄せてきました。

 それからしばらくして、今度は四条堀川にネパール料理のお店がオープンしました。これはたまたま前を通りかかったら「本日オープン」と書いており、何時開店だったかは忘れましたが、ものの数分待てばオープンという時間で誰も並んでいなかったので、「このまま待てば1人目になれるやんけ」と思った私はそのまま待機し、晴れて1人目の客になりました。このときは店主の(たぶん)ネパール人の方に「あなた1人目、これ、サービス」と(たぶん)ネパールのビールをいただきました。

 そんなことが続いて1人目の客になるって気持ちええなーと思っておったのですが、それから数年経ち、音楽スタジオを経営されている先輩が、何が理由だったか忘れましたが、別の場所にも音楽スタジオを作りたいからということで空き物件を探していると聞きまして。
 先輩は「開店閉店ドットコム」というウェブサイトで「閉店するお店」の情報をチェックして、その空き店舗を音楽スタジオにできないか、と検討しておられたのですが、その話を聞いたとき、私は数年前のハマムラおよびネパール料理店において、「1人目の客」になったときの愉悦を思い出しました。
 「開店閉店ドットコム」で開店情報をチェックしたら意図して1人目の客になれるやないかえ?というわけで、そこから私の1人目の客になる趣味が本格スタートしたというわけです。

 せっかく京都新聞に掲載してもらえたので、これからはもっともっと積極的に趣味に邁進していきたいと思います。
 今後ともよろしくお願いいたします。

 そんな趣味についてまとめた書籍『1人目の客』はウェブサイト「暇書房」で販売しております。ぜひお買い求めください。

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