見出し画像

見上げるスタイル

 90年代の渋谷だか新宿だかの朝の風景を映像で見た。当たり前だが誰もスマートフォンを持っていない。前を向いて歩いている。未来へ向かっている気がする。
 翻って今の俺たちはどうかといえば、スマートフォンを見るために俯く時間が増えた。それは到底、未来を見据える姿勢ではない。すぐ目の前にやってくる人のことも、赤から青になった信号のことも見えていない。ほんの少し前のことさえ見えていないのに十年後二十年後の未来を見ることなどできないのではないか。そんなことを言っておきたがら、俺は積立NISAの金額をスマートフォンでチェックしたりしている。というか、いま、まさに俯き加減でスマートフォンにこの文章を打ち込んでいる。
 
 姿勢というのは意外と大事なんじゃないかと思う。前にも書いたかもしれないが、スポーツ観戦におけるファンの「上から目線」は実際に上から眺めていることも原因なのではないかと思う。野球にしろサッカーにしろ格闘技にしろ、基本は客が選手を見下ろす構図になっている。俯瞰で見る眼は神の視点であるから、偉そうになってしまうのも仕方ないのかもしれない。
 相撲やプロレスの場合は最前列は土俵やリングを見上げることになるが、ああやって観ることによってアスリートへの敬意を保っているのではないか。俺調べによると、プロレスなんかの場合、リングから遠いところにいる人のほうが心ない野次を飛ばしがちである。顔が見えないというのもあるが、より神の視点に近いがゆえというのもある気がする。
 難しいとは思うがスポーツ観戦は客全員が客席から「見上げる」スタイルで観戦できるようになれば、もっともっと選手をリスペクトしながら観ることができるのではないか。その程度には我々は単純にできていると思う。全員が見上げながら観戦できるスタジアム、どうにかして作れないものだろうか。作れたら見上げたもんだと言ってみたいだけなのだが。

#note日記 #日記 #コラム #エッセイ
#蠱惑暇 #こわくいとま

ウェブショップ「暇書房」では私の著書『1人目の客』を販売しております。オープンしたお店の1人目の客になるのが趣味です。趣味についての記録をまとめた面白い本です。是非お買い求めください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?