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ライフステージに応じた仕事との距離感

前職時代、米系損保のシンガポール法人に勤めていたときの話です。

ある朝、アジアパシフィック地域の人事担当役員が降格になるというニュースが飛び込んできました。長年人事の責任者を務めてきたオーストラリア人の男性。温厚・誠実な性格で、同僚やシニアマネジメントからの信頼も厚かった人です。

すごく衝撃を受けたのですが、数日後に本人から事情を聞くことができました。なんと、自ら降格を申し出たというのです。経緯は次のようなものでした。

グローバル企業に勤める奥さんが役員に昇格し、これから激務になりそう。一方、3人の子どもたちは10代になったばかり。向こう数年間が彼らと一緒に過ごせる貴重な期間になるため、夫婦どちらもが不在がちなのは望ましくない。奥さんのキャリアを考えると、いまは自分が身を引いて家で過ごす時間を増やすべきだと判断した。 

最初、彼は辞職もやむを得ないという思いで会社に相談したのだそうです。ただ上司であるアジアパシフィックの社長から、「仕事のペースを落としてもいいので残ってほしい」と言われ、パートタイムの人事アドバイザーとして後任の人事部長を補佐することになったのです。

夫婦の役割分担と子どもとの時間の使い方を考慮した判断。そして、そうした社員の決断をサポートする会社の姿勢。どちらも非常に考えさせられました。

国内でも海外でも、30代、40代といった出産や育児などのライフイベントが重なる時期に、職場での責任が重くなっていきます。僕自身も、子どもが一番かわいい時期(=最も手がかかる時期)に、深夜残業、飲み会、出張、ゴルフなどで家に帰れない日々が続きました。もちろん自分だって大変だったわけですが、妻には迷惑をかけたと思っています。

その罪滅ぼしというわけではありませんが、いまはフルリモートで毎日家族と食卓を囲むことができています(子犬の世話も)。子どもたちが10代のうちにそのような時間を持つことができて本当に良かったと、遅まきながら感じています。

最近、ワークライフバランスの充実度を会社選びの軸にする人が増えています。その際、一般的には「日々の残業がどれぐらいか」「有休は取得しやすいか」といった、狭義のバランスが重視されているようです。

それらももちろん大切ですが、実は、家族の状況を踏まえて仕事との距離感を柔軟に調整できるか、といった広義のワークライフバランスこそがQOL(Quality of Life;人生の質)に直結していくように感じます。

日本で実現するのは簡単ではありませんし、本当にそこを変えようとすると転職するしかないのかもしれません。それでも、30代、40代でいったんペースを落とすような人が増えれば、ミドルの雇用が流動化する良い影響もあるのではないでしょうか。

もっともっと多様な価値観や働き方が広がるといいなと思っています。

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