40歳で海外転職した話 ⑤
前回までの話はこちらです。
堂々めぐりの苦悩が続く中、エージェントから三次面接の連絡が入りました。数名に絞られた候補者に直接会うために、先方がシンガポールから東京にやってくるというのです。
相手は一次面接と同じ、直属の上司になるアジアの責任者と、隣接部門のヘッド。シンガポールでの最終面接に呼ぶ1人を選ぶ、最も重要なステップとのことでした。
そういえば待遇面は大丈夫?
ここまで話が具体的になってくると、現実的なお金のこととかも気になってきます。一般的には募集の段階で年収レンジが示されることが多いですが、今回の話はやり取りしているエージェントの独占案件で、新設ポストということもあって金額がオープンになっていなかったのです。
一応この前の段階で、現行の給与、手当、福利厚生制度などは申告していました。先方もそれを見た上で話を進めようと言っているので、まあ同水準ぐらいは確保してくれるんだろうとは思っていました。こちらとしても、別に年収を上げるために始めた話ではありません。
ただ、本気で検討するとなると、家族のこともあるし、安定した日本企業を飛び出すわけなので多少は考慮してほしいところです。
「別に給料を大きく上げてと言うつもりはないんだけど、大幅減となると面接を受け続けるのもムダな気がするので、そこだけ確認して」とエージェントに伝えました。
すると、「先方はちゃんと考慮するから心配ないと言っている」という、何とも心配な回答です。とはいえ大丈夫だと言われているのに追加で確認するのも失礼に思われたので、とりあえずオファーをもらうことに専念することにしました。
となると、これはいよいよ「そのとき」がきたのかもしれない。内定獲得よりも高いかもしれない壁に挑むときが・・・
妻への報告
ここまで誰にも相談せずに進めてきました。まだ内定がもらえるかもわかりませんし、もらえたとしても実際に転職に踏み切ると決めたわけでもありません。それでも、本案件の最大のステークホルダーである妻には、そろそろ話しておかねばなりません。
内定が出た後に奥さんに打ち明けて、あえなく却下される人がかなり多いと聞いていました。業界用語で「嫁ブロック」と呼ぶらしいです。特に、安定した大企業に勤めている夫が、専業主婦やパートの妻に打ち明けた場合、その確率は飛躍的に高まると。うちじゃないか・・・
代表的な反応としては、「生活水準はどうなるの?」「住宅ローンは?子どもの学費は?」「将来的な保証はあるの?」「実家や周りの人たちが何て思う?」などなど。
根底にあるのは、家族にとっての一大事を、相談もなしに勝手に進めたことへの不信感 でしょう。至極まっとうなリアクションです。
夫としては、まだ何も決まっていないのに余計な心配はかけたくないのですが、それでもこれは早く相談するに限ると思いました。悩んでいる過程まで含めて共有してこその夫婦でしょう。
数日間、妻の機嫌をうかがいながら慎重に機会を待ちました。そしてある夜、子どもたちが寝た後のリビングでついにカミングアウトしたのです。
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拍子抜けするほどあっけない返事
ロンドンから帰国してまだ数か月。自分が、あり得ないタイミングで、あり得ないことを言い出している自覚は十分にありました。
「はい、寝言は寝て言ってください」ぐらいに一蹴されて、「ですよねー笑」みたいになる展開を想像していました。それが、こっちが心配になるぐらい落ち着いてる。
やばい、男気が半端ない。一緒に相談どころか、自分で責任もって決めろと突き放されてる・・・。
妻の名誉のために言うと、普段は全然男っぽい性格なんかじゃないんです。それが、ここまで肝がすわっているとは、驚くほかありませんでした。
我がままにやりたい放題やっているのに、こんなにも応援してもらえる。自分は何て恵まれているんだろう。その晩、ベッドの中で泣きました。
そしてそれは、意地でも内定を取って、その上でとことん悩んで決めようと、覚悟が定まった瞬間でもありました。
To be continued...
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