「テストしないものはリリースしない。」都庁でユーザーテスト、実施しました。
「テストしないものはリリースしない」を合言葉に、都政の構造改革推進チームでは、本年9月1日、都庁職員向けの「ユーザーテストガイドライン」を公開しました。
都民の利便性を上げ、行政の効率化を進めていくためには、ウェブサイトやアプリ、システムなどデジタルサービスの導入が急務ですが、私たちが目指すのは、単なるデジタル化ではなく、QOS(Quality of Service)の高い、すなわち、誰もが使いやすい、品質の高いデジタルサービスを開発することです。
そのためには、リリースの前や後に、サービスの使い勝手をユーザーに試してもらい、問題点や改善点を発見する「ユーザーテスト」を実施し、それに基づいて改善することが重要です。
今回のnoteでは、本年10月29日、東京都産業労働局で5社の事業者の方を対象に、ガイドライン策定後はじめてグループインタビュー形式で実施したユーザーテストの事例についてご紹介しながら、都庁の「ユーザーテスト」の取組について解説します。
ユーザーテストとはなにか
事例のご紹介の前に、まず東京都のユーザーテストについて、「ユーザーテストガイドライン」に基づいて簡単に解説します。
東京都の「ユーザーテストガイドライン」では、ユーザーテストを
と定義しています。
ガイドラインでは、設計・開発からリリースまでの「ユーザーテスト」の位置づけを以下の図のとおり整理しており、開発フェーズの正式版リリース前、正式版リリース後の運用フェーズのそれぞれでユーザーテストを実施することとしています。
ユーザーテストの方法にはいくつか種類がありますが、ガイドラインでは、サービスに設置したフォームで意見を集約したり、Web会議サービスでインタビューする「オンライン型」と、実際にアンケートをとったり、人を集めてインタビューする「オフライン(リアル)型」に大きく分類しています。
ビジネスチャンス・ナビ2020のユーザーテスト
東京都産業労働局では、本年10月29日、東京都中小企業振興公社とともに、オフライン(リアル)型の「グループインタビュー」という手法を用いてユーザーテストを実施しました。今回、ユーザーテストを実施された産業労働局商工部経営支援課長の佐藤拓也さんにお話をうかがいました。
今回ユーザーテストの対象とした「ビジネスチャンス・ナビ2020」は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の需要を全国に波及させるために立ち上げたビジネスマッチングサイトです。東京2020組織委員会が物品などを調達するときはサイトを通して発注し、それに対して全国の事業者が受注できる仕組みとしました。
東京2020大会が終了した今、今後とも、そのレガシーとして、このサイトを広く官民の入札・調達情報を一元的に集約したビジネスマッチングの場として、東京のみならず全国の事業者のみなさまに使っていただくため、今回、サイトの使い勝手を見直し、ブラッシュアップすることを目的にユーザーテストを実施しました。
ユーザーテストで重要なのは「ターゲットとなるユーザーにとって、そのWebサイトが使いやすいかどうか」ということです。そのため、今回のテストを効果的なものにするために、どんな方にテスターをしていただくか、というところは非常に考えました。
そこで、「ビジネスチャンス・ナビ2020」のユーザーとして利用されることが見込まれ、他の中小企業の模範となる先進的な取組を進める企業の方などに見ていただくことで、ユーザー目線での前向きなご意見をいただければ、との考えから依頼させていただいたところ、快く引き受けていただきました。
また、システムに関して知見のある方にもテストしていただくため、情報通信産業系の企業の方にもみていただきました。「ビジネスチャンス・ナビ2020」に登録されている実際のユーザー企業だけでなく、このサイトを初めて触った人にもテスターになっていただくことで、多角的な視点でご意見をいただけるよう意識しました。
有人でのグループインタビュー形式でのユーザーテスト、というおそらく都庁で前例がない状況の中で、できるだけテスターの方は偏りがなく、バランスがよくなるよう心掛けました。
大きく分けて2つの種類の意見が出ました。
まず、システムの使い勝手、UIの部分についてで、ウェブサイトのデザイン面から機能まで、さまざまなご意見をいただきました。たとえば、「発注案件の検索の際、どんな風に絞り込みをかけるUIにすればユーザーにとってわかりやすいか」といった点についてご意見をいただきました。
そして、「事業者の方が使いやすいビジネスマッチングサイトのあり方とはなにか」という本質的なウェブサイトの役割についてもご意見をいただきました。
今回、グループインタビューという形式としたことで、その場で議論が重ねられ、事務局だけでは気づかなかったたくさんのご示唆をいただきました。
今回のユーザーテストを通じて、我々が頭の中だけで考えていたものを、直接ユーザーにご意見をうかがい、「ユーザーと一緒に作っていく」というプロセスを体験することになりました。
ビジネスチャンス・ナビ2020についてはこれまでも随時システムの改修を行ってきたところですが、今回いただいた意見について、改善できるところから速やかに取り組んでいきたいと思っております。
また、「ユーザーテスト」という手法自体も、有人のグループインタビューという前例のない状況で苦労もありましたが、一度経験を積むことができたので、次につなげていきたいと考えております。
東京都のユーザーテストのこれから
米国など諸外国では、一般市民やシビックテックと呼ばれる市民エンジニア等が公共機関のデジタルサービスをテストし、改善提案を行う「シビックユーザーテスト」という手法が実践されています。
東京都では、「ユーザーテストガイドライン」に基づき、まずはそれぞれの職場で職員をテスターとしたユーザーテストの実践を徹底します。そして実践を積み重ね、そこで得られた経験をもとにガイドラインをバージョンアップさせ、2022年度には都民等を対象とするテストへと発展させていきたいと考えています。
もちろん、今回の産業労働局の事例のように、ガイドライン策定以前も、東京都では都民等を対象とするユーザーテストにも先行的に取り組んできており、そのたびにユーザー目線での構築の重要性を感じてきました。
たとえば、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい始めた2020年3月に立ち上げられた「新型コロナウイルス感染症対策サイト」は、GitHub上でオープンソースとして公開し、多くの開発者がボランティアで開発プロジェクトに参加。様々な改善提案が取り入れられた成功事例となりました。
また、「感染症拡大防止協力金サイト」も、公開前のテストページを都民の方に試していただき、ご意見をサイト構築に活用。公開後もサイトに設置したフォームからいただいたご意見をもとにサイトを改善しています。
そして、都政の構造改革の取組を一元的に発信する「#シン・トセイポータルサイト」は、一般公開前にα版を作成し、職員がテストを実施。5月にβ版として一般公開した後も、都民の皆さまからのご意見を受け、7月に正式にリリースしました。
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今後、東京都ではガイドラインに基づき、「テストしないものはリリースしない」を合言葉に、ユーザーテストを都庁の文化にすることで、都民のみなさまにとってより良いデジタルサービスを創り上げていきます。
ユーザーにとって使いやすいデジタルサービスの構築を通じて、都政のQOSを向上させるために。都政の構造改革推進チームとしても全力を尽くしてまいります。