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【短編】邪魔する咳

唇を近づけたら、目の前の彼女に押し留められた。
「ちょっと、待って。」
かすれた声で言うと、彼女は外していたマスクを着け、咳をする。

「やっぱり、止めとこうよ。」
「だって、一ヶ月ぶりに会えたのに。。」
彼女は僕を、咳のせいか、熱のせいか、涙目で見上げる。

いや、熱はないって言ってたっけ。
僕は彼女の頭を慰めるように撫でた。
「でも、その状態で、服脱いだら、風邪悪化するんじゃない?少なからず、汗もかくし。体力も使うし。」
そう言ったら、彼女は押し黙った。

僕を見つめる目は明らかに不満そうだ。きっと、自分が彼女を見つめる目もそう変わらないだろう。

遠距離恋愛している彼女と一ヶ月ぶりに会った。彼女は数日前から、咳をするようになっていて、病院に行ったら、風邪だと言われたらしい。

一ヶ月ぶりだから、正直言えばしたいのはやまやまだが、それで彼女の風邪が悪化して、その状態の彼女を置いて、帰らなくてはならないのは、辛い。だったら、今我慢する方を取るに決まっている。

「今日は大人しく寝よう。」
「ごめんね。」
「謝ることないよ。早く治るといいね。」
いわゆるシングルベッドに、二人で並んで横になって、明かりを消した。
体調が悪いせいか、早々に彼女の寝息が聞こえてくる。

寝られないほど、咳が酷くなくてよかったな。
外れかけたマスクを治す前に、寝ている彼女の唇に、自分のものを軽く重ねる。
マスクをかけ直して、掛け布団を二人の上にかけ直すと、僕はゆっくり目を閉じた。

新規投稿、3日間、お休みいただきありがとうございました。
明日から3月。暖かくなってきたこともあり、風邪を引いている人は減ってきているはず。時季外れになりそうなので、ここで投稿します。
私は季節の変わり目に体調を崩す人間なので、注意しないと。
ちなみに、咳がある時は、喉の乾燥を防ぐため、夜寝る時マスクするのはいいみたいです。

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