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【短編】はしたない!

その日、私はとてつもなく疲れていた。
前日、社内のメールサーバーがトラブって、その対応に追われ、家に帰ったのが終電間際だった。
寝るのが普段より遅く、朝だというのに、疲れを引きずっていた。

幸い、通勤時、私はある路線の始発駅を利用していたから、どんなに混んでいても、一本待てば必ず座ることができた。
私がその日に座ったのは、車両の隅にある3人掛けの中央だった。

疲れは、眠りを呼ぶ。
電車の揺れもそれに拍車をかけ、私はまぶたを閉じた。

「はしたない!」
頭の上くらいから発せられた、男性の声が、私の目を覚ました。
目を開けると、私は隣の男の人の膝の上に、上半身を預けていた。
慌てて、身体を起こして、謝った。
相手は、多分私よりひと周りくらいの上の年齢の人で、迷惑そうに顔をしかめていた。

いくら疲れていたとはいえ、迷惑千万だっただろう。
その後すぐに終点の駅に着き、私は再度男性に謝って席をたった。

今は、その人と結婚して、一緒に暮らしているのだから、人生何がきっかけになるか分からないものである。

「なに、にやけた顔をしているの?」
「最初に貴方に会った時に、はしたないと言われたと思って。」
「確かにはしたなかったと思う。若い女の子が、見知らぬ男に身体を預けるなんて。」
「でも、はしたなくてよかったと思う。だから、貴方に会えたのだから。」
「・・恥ずかしくなるから、口を閉じていなさい。」
「むぐっ・・。」

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