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【短編】計算された別れ
「別れよう。俺たち。」
耳に当てたスマホから、彼女が息を呑む音が、聞こえてきた。
その後、湿った声で、彼女が理由を問いかけてくる。
「朱里が嫌いになったわけじゃない。ただ、やっぱり前に付き合っていた人が忘れられなくて。」
そう言ったら、彼女は向こうで泣き出した。
「放っておけないんだ。朱里は可愛いし、いい子だから、きっとすぐに他の彼氏も見つかるよ。でも、彼女には俺だけしかいないんだ。」
「朱里は、一人でもしっかりしてるから、大丈夫だろ?もう、俺の気持ちは変わらないから。」
そう言ったら、彼女は向こう側で無言になった。唐突に電話が切られる。
これで良かったんだ。
俺はスマホの画面を見つめながら、そう思った。
もしもし、由香里さん。こんばんは。
駿から連絡ありましたか?
そうですか、やり直したいって言ってもらえましたか?
良かったです。
いいんです。私、もうすぐ転職して、駿との接点も無くなりますし。
会っても、由香里さんと私を比べてるの分かって、もういいやって思ってたんで。
え?私に彼氏ですか?
今はその転職の件もあって、忙しくて、落ち着いたらでいいです。
友達に彼氏と別れたこと話したら、紹介してくれるかもしれませんし。
そうですね。最初は驚きました。連絡もらって。
駿にも、それとなく聞いてみたんですけど、年齢差とか、仕事によるすれ違いが原因だったんでしたっけ?
別れて、後悔してるのは駿だったと思いますよ。
私との付き合いもそれなりに楽しんでたみたいですけど、私は見かけほど寂しくなくて、彼氏に頼る子でなかったのが、駄目だったみたいです。
最初、私が寂しそうに見えるから、自分が一緒にいてあげたいとか言ってたくせに、別れるときには、一人でも大丈夫だろとか、言われました。
私、人に頼るのが苦手なんです。すぐ虚勢張っちゃって。駿はそれが嫌だったんでしょうね。ああ、すみません。愚痴ってしまいました。
え?励ましてくださるんですか?でも、私の彼氏を奪ったのは、由香里さんですよ。
ふふっ。由香里さんも天然入ってますよね。
私も、由香里さんみたいだったら、良かったのかな。。
いえ、こちらの話です。
由香里さんの話がなくても、転職したら、別れていたような気がします。
明日から、確かに駿と会社で顔は合わせますけど、元々会社には内緒にしてましたから、大丈夫だと思います。私も彼氏と別れて傷心している体は装うので。事実だし。
え、お礼ですか?
じゃあ、駿には内緒で、今度お茶しませんか?ホテルのアフタヌーンティーセットとか、いいですよ。
奢ってくださるんですか?
嬉しいです!来月には転職するので、来月末のほうがいいかな。ちょっと先になりますけど。
また、連絡しますね。
はい。おやすみなさい。
終
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