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【短編小説】飛行機雲のたなびく先

仕事帰り、電車の窓から、空が見えた。
薄紫というか、少しピンク色も入った、夕焼けの空。

そこに、飛行機が飛んでいて、作る雲がその後を糸のように繋いでいる。
飛行機雲は、雲に隠れて見えない夕日を受け、光の糸となった。

綺麗だった。
仕事帰りの疲れた心に、その光景はとても美しく映り、泣きたくなる。

その飛行機雲は、私から見て斜め右上に向かって、たなびいていた。
その方向は、あの人がいる場所と同じ。

私は、電車を降りて、その飛行機雲を見ながら、スマホを手にする。
飛行機雲は大分薄れてきてしまっていた。
できれば消える前に、この電話が繋がればいいのだけど。

もう、日が影ってきているから、電話に出てくれるのではないかという期待は、「もしもし」と聞こえた声で叶えられた。

「今、電話大丈夫?」
「大丈夫。」
「仕事は?」
「もう、終わって、帰ってるところ。夢愛ゆあは?」
「私も、今最寄り駅に着いたところ。」
「こんな早くに電話をしてくるなんて珍しいな。何かあったか?」

相手の言葉に、少し心配そうな色が載る。
私は慌てて、彼を安心させるように、ひと際、声を明るくしてみせた。

「今ね。飛行機雲を見たの。とっても綺麗だった。」
「・・・そうか。」
「飛行機雲は、西の方に進んでいった。優星ゆうせいのいる方角。」
「・・。」
「すごく綺麗で、泣きたくなった。」
「夢愛。」
「大丈夫。本当に泣いてはないよ。ただ、優星と一緒に見たかったな。本当に綺麗だったんだよ。」

多分、私以外に飛行機雲を見て、泣きたくなっている人間なんていないだろう。だって、周りの誰も空を見上げてなんていない。さっきまで見えていた飛行機雲は、もうほとんど見えなくなってしまった。

私がホームに立ち尽くしていると、彼の弾んだ声が私の耳をうつ。

「凄い。夢愛。」
「何が?」
「見えた。飛行機雲。」
「・・嘘。」
「嘘じゃない。本当に見えた。とても綺麗だ。」
「・・・嘘だよ。こんな短時間で、そこまで進むわけないじゃない。」

私がそう、彼の言葉を否定すると、しばらくしてSNSの通知が入る。送り先は彼からで、それに付けられた画像を見て、私は言葉を失った。

夕焼けの空にたなびく、光る糸。飛行機雲。
先ほど私が見た光景と同じ。

「・・会いたいよ。優星。」
「まだ、しばらくそちらには行けない。」
「分かってる。言ってみただけ。」
「でも、分かったろ?僕たちは同じ空の下にいる。」
「そうだね。」
「帰ったら、一番に夢愛の元に行くから。」

私は、彼の言葉を聞きながら、駅のベンチに座り、身を屈める。
涙が膝にポタポタと落ちて、止まらない。
私はあと何度、彼に会えない寂しさから泣けばいいのだろう。きっと、私が泣いていることも、電話越しにいる彼には分かってしまっているんだろう。

綺麗な飛行機雲は、私達を繋いでいる。
きっとそう、それは確か。

短くて、かつ、投稿時間が普段と違ってしまい、申し訳ないです。

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